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晩ごはん
アイツと喧嘩した。
いや、正確には喧嘩中。昨日から口も聞いていない。
なんでそんなことになったのか。
それを説明すると……………存外短い。
喧嘩の原因、それは今思うと死ぬ程くだらないことだったと思う。
だが、たまたま虫の居所が悪かったオレがアイツに噛み付いて。
そして、それに対してアイツが腹を立てた。
いつも、憎々しいほどあっさりオレの説教やら意見を受け流す男が何故か、怒った。
その事実は、この程度だったら大丈夫だろうというオレの妙な確信を見事なまでにブチ壊し、驚きと困惑を与えた程。
でも、あからさまに不機嫌、そんな態度をとられて大人しく謝るオレではない。
もちろんきっちりきっぱりはっきり言い返したのである。
すると事態はますますの泥沼化。
その後はメシの時間も一言足りとも話さず、もちろん別々に就寝。
朝は朝で、何も言わずに勝手に仕事に行ったアイツ。
そしてベットから起き上がることもしなかった、オレ。
それから時間は流れて、今は喧嘩開始から一日と三時間経った夜の九時。
場所はリビング。
体をソファーに預けて本を読むオレの目の前の机。
そこには、昼の三時から製作を開始したものが鍋ごとデンと置かれていた。
鍋の中身はオレの大好物の、シチュー(しかも、手作り)。
里の幼なじみに作り方を習ったその味にはかなり、自信がある。
事実、前にアイツに作ってやったら絶賛された。
そう、お偉いさんとの外食で無駄に舌の肥えてる奴が絶賛するくらいだから、ホントにうまいんだ。
んで、なんで。
その自信作が机の上に鎮座しているのか。
その理由は主として三つ。
まず一つ目は、オレ自身がシチューを食いたい気分だったからということ。
んで二つ目は、買い物にいったらたまたまジャガイモが安かったからということ。
そして三つ目は、今日がすごく寒い日でシチュー食べたら体も暖まるだろうと考えたということ。以上三つ。
ホントにそれくらいのもので、別に深い意味はない。
もちろん、シチュー作ってやったら喜ぶだろうなアイツ、だとか。
もしかしたら自然に仲直りできるかもしれない、だとか考えたわけではない。決して、ない。
オレがシチューにまだ手を付けてないのだって、ただ食事をとる気分じゃないというだけであって。
別にアイツが帰ってくるのを待っているわけじゃない。
絶対に、そんなこと、ない。ありえない。
そうだ、ありえない。
帰りがいつもより遅い同居人のことを気にしているなんて、そんなこと。
………何故だろうか。先程から読んでいる本の内容がちっとも頭に入ってこない。
欠伸混じりに視線をあげると、壁に掛かっているカレンダーに目が停まる。
今日の日付を何ともなしに確認して、ふと気付く。
もう四ヶ月か。
オレ達が体を取り戻して、そして。
アイツと、その………一緒に暮らし始めてからもうそんなになったのかと。
あぁ、そういえば。
一緒に暮らしてから、アイツが怒ったのは初めてだ。
それに結構長い付き合い(いやここは腐れ縁というべきか)だが、こんな風にお互い口も聞かない喧嘩なんてのは初めてだ。
いつもならこんなんにはならない。
ただのたわいもない口喧嘩で終わるのに。
「ふわぁ……っと」
また、欠伸が漏れる。
何だかんだいって昨日はあんまり寝れなかったので、そのツケが今きているのだろう。
眠い目で時計を睨み付けると、針は既に十時を示していた。
おかしい、いくらなんでも遅すぎる。
いつもだったら何もない日は無駄に早く帰ってくるアイツだから余計にだ。
いや、心配してるとかそんなんじゃなくて。
ただなんとなく気に食わないだけなんだけど。
何故だろうか、オレのイライラは頂点。
しかし体の方はそれどころではない。
睡眠不足で、しかもシチュー製作と読書のために疲れ切ったオレの体は、着実に睡魔に蝕まれていく。
欲に負けて目蓋を閉じ、胸中でアイツに悪態をついているうちに、オレの意識はだんだんとぼやけ、ついには無くなった。
どれほどの時間が流れたのか。
夢うつつの中で、なんだか体が暖かいものに包まれた気がして、目を覚ました。
ばやけたままの目に映ったのは、上着をまだ着たままのアイツが、オレの体に毛布をかける姿。
「すまない、起こすつもりはなかったんだが」
聞こえてきた声は、何時も通りの声。
どうやら、もう機嫌は直ってるらしい。
そのことにに少し安心したのは悔しいけど、確かだ。
それに、毛布をかけてくれたのは有り難かったし、嬉しいと不覚にだが思ってしまった。
しかし、まだここで甘い顔を見せるわけにはいかない。
つーかそれじゃ気に食わないので、睨み上げて言葉を返す。
「……おせぇんだよ、この無能」
「あぁ、すまない。急に仕事が入ってな。悪かった、謝るよ…………無能は心外だが」
「てめーなんか無能で十分だっつーの」
「だから無能は………随分手厳しいな、鋼の」
「無能は無能じゃねえか。当たり前のこと言っただけだ」
「………まだ私を許してくれないのか?」
「………許しているように見えるか?」
そこで、にやりと不敵に笑う。
まだホントに許したわけじゃないが、これ以上からかうのも意地が悪いので、しょうがないので許してやる。
そう、しょうがないからだ。
見えないな、そう笑いながら告げて軽い口付けをしてくるアイツ。
それにうるさい、と返しオレは体を起こした。
「鋼の………」
「ほ、ほら、腹減ってんだろ!いいからメシ食おうぜ」
嬉しそうな声と、触れるだけのキスがなんだか照れ臭くて。
それを誤魔化すように鍋に手をかける。
温めてくるために立ち上がろうとすると、目の前の男はひょいと鍋の蓋を開ける。
そして、冷えてすっかり固まったシチューを指ですくうと、そのまま自らの口に運んだ。
「うまいよ」
「………そーかい」
その行動と言葉が嬉しかったなんて絶対に言わないが、顔が熱くなるのを感じた。
だから、赤くなった頬を見られないように視線をそらして、再び体をソファーに預ける。
「ああ、本当にうまいよ。しかし………」
「ん、なんだよ?」
「私は今、他のものが食いたいのだが」
「……はぁ!?ふっざけんじゃねぇ!」
まったく何をほざいているのかこの男は。
自分が許してもらっているという立場が理解できていないのか?
一瞬で、オレの頭は沸点まで到達した。
一方、目の前の男はそんなの知ったことではないと言わんばかりに、あの胡散臭い笑顔でオレを見ている。
……おい、本気で殴るぞ。つーか殴らせろ、一発。
「なあ、鋼の。やはり私は別のものが食べたいと思うのだが……」
プチリ、堪忍袋の緒が切れる。
「………だったら。だったらテメーで勝手に食いやがれぇええええッ!!!」
心からの叫びと共に、小憎たらしい顔目がけて握った拳を叩きつけようとしたまさにその時。
アイツの目が怪しく光ったような気が、した。
「………へっ?」
気付いたとき、世界はひっくり返っていた。
いや正確には、世界ではなくオレ自身がひっくり返っていたのだが。
ともかく、オレの体はソファーに仰向けになっていた。
そしてそれはもちろんオレの意志ではなく。
誰かに、いやこの場合は。
不敵な笑みを浮かべる男によって押し倒されていたのである。
直ぐにそんな現状を理解したオレ。
しかし。
文句の一つでも言おうと口を開いたのとほぼ同時に、口を口によって塞がれ、呼吸と思考が一気に奪われる。
長く、艶めかしい口付け。
その合間に男はオレの衣服をこじ開け、上着を引き剥がした。
いきなり外気に晒された肌が、ぶるりと震える。
「お、おまっ………腹減ってるんじゃ………ッ!?」
「あぁ。だから食べようとしているではないか」
「じゃあなんでこん……な……んっ」
「……私が食べたいのは、君だ」
静かで、だが激しさを感じる声が響く。本気で、何を言っているんだコイツは。
バカなのか?それともただの変態なのか?
「テメっ、ば、馬鹿なこと言ってねぇで早いトコメシを食」
「そうだな………では、両方同時にいただくとしようか」
何意味のわからないことを。
そう言おうとした唇に、何か冷たいものがのせられて。
そして直ぐにそれは、男の指でするりと塗り広げられた。
冷たかった物質は、不覚にも上がり続けるオレの体温と直ぐに解け合ってゆく。
ちらりと自らの舌で舐めてみると、それがあのシチューであることがわかった。
何をするんだ、と視線だけで訴えると、またしても不敵な笑みを返される。
そして次の瞬間。
オレの唇と塗り広げられたシチューの両方を貪るようなキスをされた。
キスの間ももちろん、オレの希望とは反して男の手が止まることはなかった。
あらわになった胸や喉元、首筋、耳に至るまで、淫らな手つきでシチューが塗られて。
そして、どんどん上がっていく熱がそれを溶かしていく。
「そういえば、まだ言っていなかったな」
「っ……な、何が!?」
急に動きを止める手にほっとしつつも不審に思ってしまい、いつのまにか閉じてしまった目を薄く開け、男の答えを待つ。
「…いただきます、鋼の。…………君自身を」
「な、な、なな何言って………!!?」
「安心したまえ。残さずに平らげてみせるぞ!」
異様に瞳を輝かせて告げられた言葉。
そして直ぐに、オレの体を「いただく」ことに集中し始めた男に、もはや反論する気にもならない。
ため息が出てきそうだ。
なんでオレはこんなヤツを選んだのだろうか。
もしかして、いやもしかしなくても絶対、間違ってると思う。
だけど。
その間違った男に、こうして体中の熱を上げられてしまうオレ自身が一番間違ってるんじゃないか、とも思ってしまう。
結局、馬鹿で無能でどうしようもないコイツにいつも翻弄されてしまう。
耳元で名前を囁かれ、こっちが切なくなる様な眼差しで見つめられるともうダメになる。
それを認めるのは本当に、マジで、めちゃくちゃ悔しくて気に食わないが。
やっぱりオレは……………………好きなんだと思う、コイツが。
絶対、本人にはンなこと言ってやんないけど。
リビングには、むせ返るように甘いシチューの香が広がっている。
壁の時計の針は、十二時とすこし前を差している。
白濁していく意識の中で、オレは男を精一杯、睨み付けた。
そして、その首に手を回すと噛み付くように自ら唇を重ねる。
いつもの感触と共に、微かだがシチューの味が口に広がった。
深夜2時のカラオケにて「………シチュープレイって、どうよ?」
そう、よりにもよって503派の管理人にほざいてきた、友(日記によく登場)。
じゃあやってやろうじゃねぇか、と書いてみた(書くなよ!)
別の友達からは「変態プレイ」と言い切られ(やっぱり?管理人もそう思う)
挙句「ついに大豆派になったの!?」と問われる始末(それに関しては断固拒否したい)
………どうしてこんな友達ばっかなんだろうか(遠い目)
しかし。甘いなぁコレ………気持ち悪っ!
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