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I take steady aim !!
陽光が差し込む社長室の中は、ひどく暖かくひどく穏やかだった。
部屋の窓側にデン、と置かれた仕事机の上に広がるは多くの書類。
そして、飲みかけのコーヒーが一杯。
すっかりと冷めてしまったそれは、しかしながら薫り高く、香ばしい匂いを部屋に残している。平和というものを描いたならば、きっとこんな光景になるだろう。
そう思われるほどに静かで、心地がよい空気だ。
だが、ここは本来そのような平穏からは一番、遠い所であった。
ここは、表向きには確かに社長室だ。大陸有数の一流企業の、その社長室。
だが実際は、陽気なこの国の暗黒世界を仕切る一族。
つまりはマフィアの、若い長の執務室であった。
普段は、平和など、平穏などとは到底言えない密談が交わされる場だ。
机に積み上がる書類も、中身はよくよく見ると物騒な商談の報告書である。
だがそうはいうものの、やはり今は、そんな黒い日常とはまるきり違う様相を呈していた。 不思議とやわらかな空気が部屋を包んでいるのだ。
きっと、ここを漂う微かな寝息がそう感じさせているのだろう。
それは件の机に突っ伏している人物から発せられていた。
若い娘の、ものだ。
社長の椅子に座る彼女は、まるで幼子がお気に入りのぬいぐるみを掴んで眠るように。
無邪気にきゅ、っと手を握りながら、夢の世界を渡っていた。
その顔は頑是なく、またひどく幼くも見える。
とても、マフィアとは。それもかのボンゴレファミリーの十代目とは見えない。
暗黒社会のトップのそれには、とても。
そんな事実など、まるでただのまやかしと思える程に。
だが、彼女はやはりマフィアそのものであった。
確かに闇の世界の住人だった。
証拠にかちり、かちり。部屋の真ん中にある、ソファーの辺りから聞こえる音。
それは、裏側の世界のそれ以外の何物でも無かったからだ。
銃を、誰かを傷つけるためのそれを整備する時の調べ。
それが日常的に響く空間は、決してまともな世界ではないからだ。
その行為をする人間もまた同じである。例え、それがどんなにそうは見えなくとも。
ほんの、少年であろうとも。
そう。彼女の部屋で、銃の手入れをしていのは少年だった。
夜の闇よりも黒いスーツに全身を包んでいる彼は、部屋の主よりも一回りは幼く見えた。 だがその眼光は、端正な顔立ちと相まって恐ろしいまでに鋭く感じる。
睨まれたら、どんな者でも動けなくなるくらいに。
それは、それだけで、彼がただの少年ではないことを示している。
かちかちと愛用の獲物をいじる姿は、まさしく裏社会の住人のそれだ。
不意に、それまで響いていた金属音が止む。少年が手を止めたのだ。
彼は、整備の終わった銃をしげしげと眺め、背広の中へと収める。
そして不敵に笑った。完璧だ。どこにも不備など見当たらない。
まあ、もともと間違いなどあるわけがないのだが。
ちらり、彼は眠ったままの「ボス」を見る。そして笑みを深くする。
そう、ダメダメな彼女でも、あるまいに。
彼女と自分は違う。違うのだから。
彼女とは、まったくもって何かもかも。
そこまで考えて。彼はなんだかひどくイラついた気持ちになる。
視線を外して、思わず舌打ちをした。
そのままどさりとソファーの背に身を預ける。おもしろくない。
少年は、目を瞑って、荒んだような心を抑え付けようと試みる。
だが、それは逆にじわりじわりと彼の脳内を侵食して、絶えることはなかった。
言い様もない不快感は、寧ろ増すばかりだ。くそが。
小さく呟いて、彼は目を開く。そして、一度天を仰いだ。
だが、彼の視線はまた自然と、かの娘へと落ちる。
彼女の寝顔は、相変わらず穏やかなままであった。
常時は、くるくると動く栗色の瞳はまだ開きそうもない。
心底安心しているような、そんな表情だ。
それがまた気に入らなくて、彼は顔を歪めた。二度目の舌打ちをする。
ここ数日、不眠不休で仕事に打ち込んでいた彼女に、僅かばかりの休息を許可したのは彼自身のはずなのに。しかし現実として彼は不快であった。
彼女が、自分の前で安心しきって眠るという行為が。
何故か。それは、先程の愚鈍とした感情と関係がある。
彼は、視界を変えないままに考える。
このような行為を、彼女は他の男の前でもするのだろうかと。
二人きりの空間で、無防備な姿を、晒すのだろうかと。
例えば部下達に。あるいは、仲間達に。
だが直ぐにその回答は出た。 ありえる話だ。
どこか異性というものに無頓着な彼女ならば。
異性を異性として認識していない、といった方が正しいのかもしれないが。
だがその答えはいずれにしろ、少年にとっては好ましい話ではない。
誰にでもするのか。男を男と見ていないのか。
そのどちらに転んだところで、痛手に違いなかった。
まったく忌々しい事実だ。
どうしてお前はそうなんだ。ムカつくんだよ、そういう所。
言葉には出さずにただそう思う。眼光を、意図的に鋭くした。
だが、彼女はまだすやすやと夢の中にいる。起きる気配はまだない。
代わりにうー、だのむー、だのと、はっきり発音されない声を洩らした。
微かな甘さを持ったそれは、言うなれば寝言だった。
不意すぎるそれに少年は僅かに、頬を染める。
そんな自身を認識した瞬間、彼はふい、と視線をそらした。
彼女をこのまま見ていることが、出来なかったからだ。
その理由を、少年はよく知っている。
悔しいことに、しっかりと。
初めてあの感情を覚えたのは、いつだったろう。
その時、彼はその気持ち悪い感覚を必死に否定したものだ。
そんな馬鹿な。ありえない。まさか。なんで彼女なんかに、この自分が。
だが、時が経つ程にそれは肥大し、とうとう認めざるをえなくなった。
しかしながら、認めたくなかった苛立ち。それは、彼がそれをそれと受け入れてからの感情に比べたらまだましだったように思う。
男を、男としてみない彼女。そんな認識など欠如したかのような、彼女。
無頓着に、無意識に彼を翻弄する彼女。それは、少年にとっては苛立ちを越えていた。 いっそ不快としか言い様がなかった。おもしろくないものだった。
だが、それでも。
それでも、その不快感はまだ許されるものであるかもしれない。
彼以外の男も、同じことであるのだから。しかし。
少年にはまだもう一つ、否めない事情があった。寧ろそちらの方が深刻だ。
それが、彼と彼女の決定的な差異、違いであったからだ。
それぞれが互いに向ける感情以上に違うもの、どうにもならない事実。
いつのまにか険しい顔になった彼は、自らの掌を睨み付ける。
まだ十歳のそれは、年令に相応しい大きさだった。
いくら頭が世の大人より遥かに優れ、心も成熟しきった彼とて体はまだまだ子供だ。
身長だって、低い。女性の中でも小柄な彼女よりも、大分。
十二も年下であるのだから、それは当然だ。
しかしその現実こそ、一番、彼を苛立たせているのだ。
年下であること。見た目が、彼女よりずっと子供であるということ。
それだけで、彼女は、どこか少年を少年として扱おうとする節があった。
子供扱いをするくせが。生意気にも、大人ぶって彼を可愛がろうとする所が。
それは、彼女が大人になってから特に顕著になった。
ダメダメのくせに。生徒のくせに。
ただ年上というだけで少年を、少年としてしか見ない。
彼の力を認めながらも、大人としては見ないのだ。
まして一人の男とは、決して。
少年は、開いた掌を握り締める。
いつまでこんな状況が続くのだろう。
それを考えると、それまでより強い憤りを覚えた。まったく、腹立たしい。
だがもちろん彼とて、このままでいるつもりはない。
まったくもって、無かった。それが彼の性分だった。
そう。いつか、そう遠くない未来。
こんなくだらない均衡など崩してやるつもりだ。
自分は男であること。彼女なんかよりずっと、ずっと大人であることを知らしめてやる。 わからせてやる。絶対に。必ず。
(その後でもお前は、まだ俺の前でこうやって寝れるのか?)
ゆらり。少年は、立ち上がった。ゆっくりと若き「ボス」へと近づく。
そして安心しきった様子で眠り続ける彼女の、左目の端に自らの唇を触れさせた。
触れる、だけだった。一瞬だけのもの。
だから、彼女は眠りから覚めることはない。知るはずもない。
少年の行為も感情も、企みも、何もかも。
顔を上げて。少年はまた憮然と彼女を見た。彼女はやはり起きそうもない。
寝汚いな、お前は昔からそうだ。そう思って、にたりとまた笑う。
不思議なまでに愉快な気分だった。もちろん、今の彼女と昔の彼女は違う。
だが、変わらない所もある。それが、面白かった。
そして自分がそれを知っているという、妙な喜びもあったのかもしれない。
彼は背広から整備したばかりの相棒を取り出す。
そして、それをやや乱暴なまでに、彼女のこめかみ。つまり先程触れた辺りに突き付ける。
そして殊更、意地の悪い声で告げた。
「起きろこのダメツナ。でないと、」
撃つ。 だがしかし、その非情なる宣告は部屋には響かない。
慌てて起きた彼女の、なんともすっとんきょうな叫び声でかき消されたからだ。
「うわぁぁあぁ!?」
「なんだ、もう起きたのか」
「り、リボーン!何するんだよ、お前!」
そう言って、信じられないという顔でこちらを見た彼女を確認して。
少年はまたにたりと笑う。彼は、楽しかった。
無意識に彼自身を翻弄する、心を乱す彼女をこうやって、翻弄することが。
このどうしようもなく鈍い「ボス」を少年自身の手で慌てさせることが。
そんなことが純粋に楽しかった。この俺がお前なんかに転がされ続けてたまるか。
彼女で遊ぶことは彼の楽しみなのだから。
それは今も昔も変わらない。
彼女を取り巻く環境が変わっても。彼が自らの感情を認めてからも。何一つ。
先ほどまでの穏やかさがまるで嘘のような部屋の中。
途端に騒がしくなったその空間。
そこで昔のように、ぎゃあぎゃあと文句を言う彼女とそれを煩いといって黙らせる少年の頭上で、壁の時計の針は、彼女の休息の終わりを指していた。
心友(こころのとも)錐野っちへのバースデー捧げ物。リボ→ツナ十年後くらい。
ふと思い立って書いてみたらなんかリボ様別人。ってかヘタレすぎだこの坊ちゃん!(もはや失笑)(おい)
ついに復活でもモノローグ一直線になり始めたのははいっそ無視したい事実。
やっぱコミックス一度読んだだけでテキスト書くのってもう眼界なんだろうか(遠い目)
ちなみにタイトルの意味は「狙いすます!」です。ま、どうでもいいですが(待て)
ともかく錐野っちおめでとー。
こんなんでもリボツナと言い張るぜ!(ぐっ)(親指立てて)
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