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MotherLand
青く蒼く碧く。どこまでも空は続いていく。
通り過ぎていく薫風は、悠然と浮かぶ雲を運び、広場の聖堂の時を告げる鐘の音を街の隅々に届けていた。
だが、風が運ぶのはもちろんそれだけではない。
早春三月、暖かくなった街を行く人々が自然に交わす会話、笑い声をも運んでいた。
そう。風は運んでいた。
休息日だというのに暗い部屋の中一人、黙々と書類と向き合っていた青年にも、その底抜けに明るい声を。
はぁと大きく息を吐くと、ツナはペンを置いた。
じとりと横に積み上がる書類を睨んでみるが、もちろんそうしてみたところで書類が減るわけでもない。
あまりの量に、誰か(具体的には自身の右腕と左腕に充たる二人)に手伝ってもらおうかとも考えた。
が、裏社会の事情の塊とも言えるそれ。
例え信頼の置けるファミリーと言えどもボス以外が見てはいけないと既にあの少年に釘を刺されている。
あぁ、しかし。この量を今日一日で終わらせるのはどう考えても無理だ。
ツナのキャパシティを、限界を越えている。
もちろんズルをしようかとも考えた(というかこの書類の量を見た瞬間に考えた)が、
それが露見した場合の自身の安全がまったくもって保障できなかった。
否、五体満足でいられるわけがない。
もちろん今年で14になる少年と出会った頃に比べると、ツナもかなり強くなったと自負している。
だが、ツナを鍛えたのはそもそも少年なのであり、ツナが彼に勝てる可能性は皆無だった。
だからこそツナは今こうして真面目に書類と向き合っているのだ。
しかし、そうしてからもう何時間たっただろう。
ポケットから銀の懐中時計を取り出して見ると、針はもう昼過ぎを指していた。
朝からやっているから、もう五時間といったところか。
体をどさりと椅子に預け、本日二回目となるため息をツナは吐く。
そして思い立ったように立ち上がると、気分転換がてら窓の方へと何気なく足を向けた。
窓の外に広がる街並み。白く古い壁と赤い屋根の建物の群れに、これといって特筆するものはなかった。
いつも通りの光景が広がっている。明るい、日の当たる世界に暮らす人々の姿も見える。
そして、聞こえてくる明るい、明るい笑い声。
日曜という所為か、それは親子のものが多かった。
いや、恋人や友達同士のそれも沢山聞こえるのだ。
しかし、どうしてかツナの耳や目に伝わってくるのは親子の、特に母子の声や姿であった。
「………母さん、ね」
ぽつり、自身が呟いた言葉にツナは少なからず驚いた。
だが直ぐに苦笑する。
そんな、いくらなんでもいい年の男が思わず口にする言葉でもないだろうにと。
「おい」
「うわぁあぁあああッ!?」
突然かかった声にツナは心底驚いて、勢い良く振り返った。
そこにいたのは、もちろん声の主で、そしてツナに仕事を言い付けた少年。
黒いスーツをボスであるツナ以上に着こなす彼の姿を確認すると、ツナは大げさな程に息を吐いた。
「お、お驚かせるなよリボーンッ!!!」
「お前が勝手に驚いたんだろうが」
「そ、そりゃそうだけど………そのッ!」
「なんだ?」
訝しげな視線を返されて、それ以上をリボーンに言うことはツナには出来ない。
情けないとは思うが、この少年に反論することなど到底無理なのだ。
いや、反論はする。だがその後自分に待ち受ける反撃を考えるとどうやっても分が悪い。
なんだかんだで長い付き合いだ。この少年の物騒な性格はそれなりに解っている。
だからツナは急いでなんでもないとただ答え、誤魔化すように視線を窓の外へと向けた。
眼下に相変わらず広がる街は、明るい声が響きわたっている。
「…………会いたいのか、お前」
それは、突然で。最初、ツナには意味が分からなかった。
だが、直ぐにその意を理解して思わず振り返る。
誰に、という目的語が欠如しているにも関わらず、ツナにはそれが何を指しているのかすんなりとわかった。
いや、感じ取ることができた。
「………聞いてたのかよ」
「聞こえたんだ」
そう、特に悪怯れる様子もなくあっさり返ってきた言葉に、ツナが反論することはもうなかった。
あんなことを聞かれて恥ずかしいという感情は確かにあったが、怒る気にはならなかった。
何故か、自嘲気味の笑顔さえ浮かんでくる。
「………格好悪いよな。マフィアのボスが母親のことを気にしているなんて、さ」
あぁ。
これは本当に自嘲だとツナは思った。
母親を故郷に残してきた自分が、母親を気に掛ける権利などあるのかと。
会いたいと思うことは正しいのかと。
そんなことは全て許されないと理解っているはずなのに。
全て、覚悟をしてこちらに来たと言うのに。
(それでも、オレは望むというのか)
だから、だからこそ叱責して欲しかった。
格好悪いと、情けないと言って欲しかった。
そう望んで、求めてツナはリボーンを見る。
だが、リボーンは別に非難するわけでもなく、ただ真っすぐにツナを見ていた。
それが彼の不安を何故か妙に煽った。
だから、取り繕うように言葉を重ねる。
「……ほ…ホント、格好悪いよな」
「そうか?別に、そのくらい普通だろ」
「へっ?」
意外すぎるその答えに、ツナは思わず間の抜けた声を洩らす。
「いや、普通だろ」
「普通って、いやオレ大人だしそんなマザコンみたいだし超格好悪いじゃんか!?」
まくしたてるようにツナが申し立てるが、リボーンは逆に訝しげな視線を送るだけである。
「だからイタリアじゃ普通だぞ、そのくらい」
「………うぇ?」
「おう。イタリアの男は皆ママンを大事にするもんだからな。ママンに会いたいって思うことは悪いことじゃねぇよ」
そう言ってにやりと笑うリボーンが、嘘を付いているようにはとても見えない。
思わずツナは呆然として、見開いた目を目の前の少年に向けた。
なんだか慌てて必死だった自分が馬鹿みたいではないか。
………あぁ。今更、とはいえなかなか恥ずかしい。
「うん。ツナもイタリアの男らしくなってきたじゃねーか」
と、満足気に語るリボーンを今度は睨み付け、オレは日本人だとツナは精一杯の反論を試みる。
だがもちろんそれがかの少年に通じるわけがない。
そういえばお前仕事はどうしたんだと睨み返されて、今すぐやるからごめんなさい撃たないでくれとあっさりツナは白旗を上げた。
そして直ぐに自身の机に戻ると、またイタリア語と名のつくアルファベットの羅列と向き合い始める。
その姿を確認すると、リボーンは足を部屋の扉へと向けた。
いくらボス付きの補佐の任に付いているとはいえ、彼に振り分けられている仕事はとても多い。
あまりツナと供に過ごす時間はないのである。
そんな、優秀すぎる少年の背中を見ることもせずに、視線は書類に落としたままツナは彼を送り出す。
自身のことはさておいて、頑張れよと心中で念じなから。
「おい、ツナ」
不意に、呼び掛けられる。
何事かと顔を上げると、リボーンが顔だけをこちらに向けていた。
「な、なんだよ」
「……ちょっとくれーならいいんだぞ、電話」
誰に、とも言わずただそう告げられた言葉はひどくぶっきらぼうで。
だが心からの気遣いを感じることができた。
電話なんて出来るわけがないのに。
表の世界に生きる母と、闇の世界に生きる自分がもう関わりを持ってはいけないのに。
そのことを一番理解しているのは他ならぬこの少年のはずなのに。
それでも、いや、それなのに。
自分を案じて言ってくれる。気遣ってくれている。
冷淡に見えるが本来はとても、とても心優しい人間なのだ、この少年は。
あぁ。ツナは思う。
自分は幸せなのだと。
普通の人の幸せとはかけ離れているけれども。
自分をこうして案じてくれる人や、信じて、命を預けてくれる人達が周りにいてくれるのだから。
(十分、なのだから)
「リボーン」
「…………」
「………ありがとう」
それに直接リボーンが答えることはなかった。
扉に向き直るとただ仕事をちゃんとしろと言い残し、片手をひらりと振って部屋を後にした。
一人残されたツナは、黙々と文字を目で追っていく。
窓からは相変わらず街の喧騒が聞こえていた。
明るい、母親と思しき声も。それに答える男の子の声も。
本当は。本心では。
会いたいと、思う。声も聞きたい、と思う。
だが、それが許されないのも理解している。
それでも敢えて電話してもいい、と言ってくれた優しさだけで、ツナにとってはそれでもう十分だった。
あぁ、だから。だから……
(………解ってくれるよね、母さん)
外を見ると、青い蒼い碧い空がどこまでも果てることなく広がっている。
大きな大きな雲がそこに悠然と浮かんでいる。
きっとかの国までこの空は続き、そして雲は流れてゆくのだろう。
眩しすぎるその青と白の対比に、ツナは思わず顔をしかめた。
大豆派の友達がリボーンにハマってうるさいから誕生日プレゼントに書いてみた。
これのどこがリボーンですか(自分に聞きたい)
未来パロ、しかもリボツナ(が好きなんだって、彼女!)
コミック一回ざらっと読んだだけで書いたんで、詳しい知識はナッシング。
ちなみにタイトルの意味は『故国』とか『故郷』ってことで、別に他意無し。
いや、ホント深い意味なんて無いから!(必死)
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