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<薄青空の公園>
薄青色の空が、帝都全体を覆っている。
しかし浮かぶ雲の数は多く、晴れているとはいえ地まで届く太陽の光は少なかった。
特に多くの木々が茂るパークに落ちる陽光は淡く、微かなものだ。
都の中で、特に富裕な人々の邸宅が集中する地域にあるここは普段は静かな公園である。
しかし、社交期。特に早朝などは着飾って馬で散歩する上流の人々で溢れ返る。
だがそれも一時のことで、日が高く上れば直ぐに公園は元の静けさを取り戻すものだ。
正午前のこの時間、それも騎馬専用ではなく歩行用の道を通る人は、それほど多いものではなかった。
僅かに落ちる日の暖かさを頬に感じて、ウィンリィははたと顔を上げた。
たった一枚だけ持っていたワンピースに身を包んでいる。
彼女は、鞄歩道に点在するベンチの一つに腰掛け、膝を抱えていた。
傍には私物を詰めた小さな鞄がある。
ウィンリィはゆっくりと辺りを見渡した。
視線を上げると、おぼろげながらも空の青を確認することが出来る。
直に太陽も、頭の上へと登るだろう。
その時、木々の合間を駈ける冷たい風が、彼女を包み込んだ。
それに耐えるように自らを抱き締めるようにする。
そしてウィンリィはまた、ことりと頭を自らの膝に預けた。
あれからどれくらい経ったのだろう。ぼんやりと思ったのは、そんなことだった。
十年近くも身を置いた邸宅を後にした時。
空はまだ暗く太陽も姿を見せてはいなかった。だからおよそ数時間、といった所だろうか。
しかしそんなことは、真実彼女にとっては何の意味もない。
時の流れは、何を変えてくれるわけもないからだ。
そして、彼女の中を本当に占めるのはまたそんな疑問などではなかった。
ひどく冷たくて、鋭い刺のような物がウィンリィの中に留まり続けている。
そしてそれは彼女自身を、この場から動けなくしていた。
その痛みに似た苦しみの正体。
そして何がそれを生んだのかと言うことこそ、彼女にとっての全てであった。
もう会わないという、覚悟。会えないという、現実。
ただ、それだけが彼女をここにずっと縛り付けている。
そして、これでよかったのだと自分に言い聞かせることばかりを繰り返しているのだ。
彼の、ためだ。
そう、もう何度目かも知れない呟きをする。
こんな自分は、相応しくない。
生きる世界が違うのだから。全てが、違いすぎるのだから。
だが、こうするたびに、逆に自身の中の刺が鋭くなることにウィンリィは気付いていた。
それは矛盾だった。しかし、彼女にはどうすることもできないのだ。
ただ狂おしく、辛いだけ。耐えることしか、出来ない。
冷たい風が、またウィンリィの傍を通り抜ける。
いつの間にかじわりと浮かんできた温かいものが零れないように、歯を食い縛った。
寒さに震える体を抱き締める力を、強くする。諦めろ。諦めたのだから。
また繰り返した。覚悟はしたのだ。出来たのだ。
だからこそこうして、自分はここにいるのではないか。
エルリックの家を出て来たのではないか。何も言わずに。
彼に、会わないままに。
ちくりとした痛みを感じて、ウィンリィはまた、きゅっ、と一度だけ自らを抱く腕の力を強くした。
そう、もう会えないのだ。終わったこと。自分から、断ち切ったことではないか。
ならば、考えなければいけないことは今までのことではないはずだ。
何よりも、許されないはずなのだ。約束を破った自分にはもう。
共にある未来を望むのは。
だからこそ、考えるのは。考えてなければいけないのは。
ウィンリィは下を向いたまま、ふるりと頭を振った。
それは頭に浮かぶ金色を消すための行為だったのかもしれない。
そして、顔を上げて鞄を手に取ると立ち上がる。彼女が考えなければならないこと。
それはこれからのことだった。仕事のこと、住む場所のこと。問題は沢山ある。
身の寄る所が無くなったのはこれで二回目だった。
だが、今は花売りくらいしか出来ない子供ではない。奥様に教えてもらったものがある。
ハウスメイドとしての経験が、技術がある。
駅に行って新聞でも買って、仕事を探そう。紹介状も、あるのだから。
だから、大丈夫。生きてゆける。
一人なんて、慣れているのだから。
(もともとあたしは、一人だったんだから)
まっすぐとウィンリィは前を見る。そのまま、しっかりとした足取りで歩き始めた。
振り返りはしない。ただ、黙って足を進める。
その空色の瞳に浮かぶ雫など気付かないように。
いや、分かっていてわざと無視をするように。ただ、黙々と。
しかしそれでも彼女の頭の中で輝くのは、消したはずの金色。
このまま、一生消えることはないのだろう。それは苦しいだけかもしれない。
だが、それでも大切だった。ただ、愛しい感情だった。
そしてきっといつまでもその痛みは自分の中にあって、心を縛り続けるのだ。
そんな予感、いや確信を彼女は感じていた。悲しいほどに、それだけを信じていた。
それだけが、彼女の全てだった。
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