いわないことは






まだ午前中なのになんて人が多いのだろう。
ふと感じたことは一週間前と同じ実に単純なそれだった。
さすが中央のステーション、人々の目的地へ誘う拠点だけのことはある。
行き違う人々は休日だからか、それともこれから始まる旅に思いを馳せているからか。
そこを行きかう人々は明るい顔が多い。
見送る人と旅立つ人の、楽しげな笑い声も雑踏に混じって聞こえてくる。
そんな空気の中、あたし達はどこか浮いていた。
旅立つ人間と見送る人間という状況は彼らと何ら変わりはないのに。





休暇を取って、兄弟が居を構える中央を訪ねてきたあたしは、今日南の街へと帰っていく。
兄弟の兄の方がその見送りに来てくれていた。
こうして彼に送られるのはこれで何度目になるだろう。
二人が旅を終えてから居を構えたのは、ここ中央だった。
政治体制の変化による混乱が納まるまでの短い期間だけ、という要請に答えた二人が軍に入ってからもうどのくらいになるのだろうか。少なくとも一年は過ぎている。
忙しいらしく、訪ねてきてくれたことは殆どない。
だから、こうして見送られるのは結構な回数になる。
今日だって、やはり忙しいようで彼は青い制服に身を包んでいた。
これから、仕事が待っているらしい。
先に仕事へと向かった―――また暫く会えないだろうから二人で。
そう気を使ってくれた彼の弟はこの場にはいない。
申し訳なく思ったけれど、その優しさが嬉しくてあたしはそれに甘えることにした。
だから、二人だった。





汽車の窓から見上げた彼の様子は、昔と変わらない。
変わったのはいつのまにかあたしよりも目線が高くなったことくらいだ。
身に纏う軍服が、目に痛いくらいよく似合う。
なんだかそれが悲しくて、取り繕うように笑顔を作ってじゃあ、と告げた。
返ってきたのはおぅ、と実にぶっきらぼうなもの。
それはただの幼馴染みであったころとまったく変わらなかった。
あたし達の関係はすっかりと変化を遂げているにも関わらず、だ。
次にいつ会えるか分からない恋人にする別れの挨拶にしては、甘くもなく随分とあっさりしたもの。しかしこれがあたし達の動かざる現実。
ただ黙ったまま、お互いを見ていただけ。
でもあたしにはそれだけで十分だった。十分、と信じていた。




ほどなくして発車ベルが鳴り響いた。ゆっくり、汽車は動き始める。
それを確認してからあたしは小さく手を振った。小さく、小さな、笑顔を作って。
そうしていないと、なんだか泣きそうだった。
そんなあたしに、彼は片手を上げて答える。
その顔は、どうしてか困ったような笑顔だった。
そうしている間も汽車の速度は上がってゆく。
彼の姿は次第に小さくなって、直ぐに見えなくなった。
しかし視線は、いつまでも彼が居る方角を捉え続けている。
次に会えるのはいつになるだろう。
汽車の緩やかな振動を感じながら、あたしはそんなことばかり考えていた。












さっき、ホントはもっともっと話したいことがあった。
伝えたい気持ちも、感情ももっと沢山。
だけどあたしはそれを口にすることは無い。
少しでも音にしてしまったら歯止めが効かなくなる。それが怖かった。
彼らの、彼の重荷になる、負担にしかならないことを吐き出してしまいそうで。
ぶっきらぼうで、素直じゃなくて。でも誰よりも何よりも優しい、彼を困らせたくはない。
あたしの役目は支えることであって支えられることではないのだから。
だから絶対、言わない。言って、やるものか。
だけどこうやって一人になるとやっぱり色々、考えてしまう。




例えば、先程二人で歩いていた時。
帰りたくないと告げたらどうだっただろう。


例えば、ホームのベンチに座って時間を潰していた時。
今度何時会えると訪ねていたらどうだっただろう。




例えば。そう、例えば。
互いに手を振り合った時。
窓から身を乗り出して、離れたくないとしがみ付いていたらどうだっただろう。




彼は、それに答えてくれただろうか。頷いて、くれただろうか。





そこまで考えて、はっとする。何を考えているんだろうあたしは。
何を望んでいるのだろう。今以上?そんな馬鹿な。
そんなこと、ありえない。あっちゃ、いけない。
あたしは十分に幸せなのだから。
昔とは違う。
大切な人の、彼の居る場所がわかっていて。電話だってすることが出来て。
想う気持ちは同じであると信じることが出来るのだから。
わかっている、そのくらい。高望みをしてはいけないことなんか。
ああ、だけど。



だけど。そう、それでも。
寂しい。本当は、もっと一緒にいたい。
そんな台詞が頭をいつも過ぎる。口から、出てしまいそうになる。
それはとても自分勝手な感情なのに。そう、わかっているのに。
それでも今以上を心の奥底で望んでしまうあたしは。
あたしは、なんて欲深い人間なのだろう。
いったい誰がそれを罰してくれるのか。



(あぁでもそれはきっと彼以外には出来ないのだ)









頭に浮かぶは、先程の困った笑顔。体を支配するは行き場の無い罪悪感と恋情。
仕事に向かったであろう彼は、いったい何を思っているのだろう。
それをあたしが知る術を持つことなど無い。
がたんごとんと音をたてて汽車は動き続けている。
窓の外を流れる景色は太陽の光に照らされて輝いていた。
だけど、鮮やかなそれらは何一つあたしの心に訴えかけてこない。
ことりと、頭を窓に預ける。
ガラスの冷たさが殊更感じられて、あたしは思わず目を瞑った
閉じた瞳に浮かぶのは。頭に考えるのは。心に想うのは。
どこまでもどこまでも認めたくない感情と彼の笑顔だけ。
あたしは本当に、泣きたくなった。























拍手ログ。 えっ何コレなんでこんなにかわいそうなのウィンリィ!?と自問自答したい今日この頃。
モノローグで話を突っ切ろうとした根性が悪かったのか(遠い目)(悪かったんだよ!)
つか、拍手でこの暗さと悲恋臭はないだろ自分ははははははははははは(以下略)


エド視点、ありますー。