いえないことは








人々を西へ南へ、北や東へと運ぶ起点。
セントラルのステーションはいつも人が溢れている。
休日ということもあって今日はそれが特に顕著で、プラットホームもまた同様だった。
絶えず人と汽車が出入りをしている。
土埃と、汽車の煙突から登る蒸気でひどく空気は濁っていた。
それは昔も今も変わらない。
旅をしていた頃は、この淀んだ空気を吸うたびにあぁ中央に来たんだなぁと実感したものだ。





休暇を取って、オレ達兄弟が居を構える中央を訪ねてきた彼女が、南の街へと帰っていく。
オレはその見送りだった。こうして彼女を見送るのはこれで何度目になるだろう。
国情が安定するまで、という約束で軍に入ってからは忙しくて。 めったに自分から訪ねることが出来ずにいるからもう結構な回数になるだろうか。
今日だって、オレは青い制服に身を包んでいた。これから、仕事が待っている。
先に仕事へと向かった弟の姿はこの場には無く、オレ達は二人きりだった。



汽車の窓からちょこんと顔を覗かせた彼女の様子は、昔とまるで変わらなかった。
笑顔を浮かべ、青い瞳で真っすぐにオレを捉えてじゃあ、と告げる声も。
それにオレもおぅ、と返す。やはりそれはただの幼馴染みであったころと変わらなかった。
オレ達の関係はすっかりと変化を遂げているにも関わらず、だ。
次にいつ会えるか分からない恋人にする別れの挨拶にしては甘くもなく随分と淡泊なもの。
しかしこれがオレ達の動かざる現実。
ただ黙ったまま、お互いを見ていただけ。







ほどなくして発車ベルが鳴り響いた。ゆっくり、汽車は動き始める。
それを確認してから彼女が小さく手を振った。小さく、小さな、笑顔を浮かべて。
それが無償に愛しく感じるのはきっと、気のせいではないだろう。
同時に心を摘まれるような痛みを感じるのも。
オレはただ片手を上げて答えるだけだった。そうしている間も汽車の速度は上がってゆく。
彼女の姿は次第に小さくなって、直ぐに見えなくなった。
しかし視線は、いつまでも彼女が去った方角を捉え続けている。
次に会えるのはいつになるだろう。
ホームに立ったまま、オレはそんなことばかり考えていた。












本当はもっと沢山言いたいことがある。言ってやりたかったことも、沢山。
だけど実際はいつも何も伝えられないままだ。
まして甘い言い回しやクサい台詞なんて到底無理なわけで。
男は言葉じゃなくて行動で示すもの、なんて都合のいい言葉があるけれど。
その肝心の行動をオレがちゃんと出来ているかはまったく自信が無いのが現状。
きっと恋人としては最低な部類に入ることも十分に理解している。
それがわかってはいるくせに何もできない、オレ。


例えば、先程二人で歩いていた時。
彼女の手を取っていたらどうだったろう。


例えば、ホームのベンチに座って時間を潰していた時。
小さなその肩を抱き寄せていたらどうだっただろう。




例えば。そう、例えば。
互いに手を振り合った時。
窓から覗かせた彼女の唇を奪って。
離したくないと無理矢理抱き寄せていたらどうだっただろう。



彼女は喜んでくれただろうか。笑って、くれただろうか。








しかしそれはすべてオレの妄想に過ぎない。現実は違う。
オレは結局何も出来なかったし、何も言えなかった。いつもそうだ。
一番肝心な言葉も口に出来ていないのだ。
いつか必ず迎えにゆくから。一緒に故郷に帰ろう。
想像の上ではすらすらと流れる台詞をまた、音にすることが出来なかった。
いつか、必ずという絶対的な言葉を口にすることが怖かったのだ。
いつどうなってしまうか分からないこの身で、確定した未来というものを約束する自信が無い。
約束をして、彼女をそれで縛りたくない。縛る資格が、無い。
もちろん、それに付随する行為もまた同じことだ。
年をとって、臆病になったのかそれともこう考えるのは大人になった証拠なのか。
昔、この場所で容易くできた約束。それが今は出来ない。
あぁ、だけど。



だけど。そう、それでも。
彼女を手放す度胸も、その気もオレには無いのだ。
まして他の男にくれてやる気も、また触れさせる気も無い。
未来永劫、彼女に触れていいのは自分だけだと信じてさえ、いる。
それはオレのエゴに他ならない。自分勝手な感情だ。わかっている。
オレは、なんて欲深い人間なのだろう。
いったい誰が、誰がそれを罰してくれるのか。



(ああでもそれはきっと彼女以外には出来ないのだ)








頭に浮かぶは、先程の微笑。体を支配するは果ての無い罪悪感と恋情。
動き続けている汽車の中、彼女はいったい何を思っているのだろう。
それをオレが知る術を持つことなど無い。
ただただプラットホームの濁った空気が体に重くのしかかるだけだ。
ため息を一つ吐いて軍服のポケットに腕をねじ込む。
取り出したのは約束の形。
渡せないまま眠るその金属の輪は日の光に反射して皮肉なほどに輝いていた。





















拍手ログで未来パロ。書き始めた当初はこんな話になる予定は全く皆無だったもの。
あれっ何この悲 恋 臭 さ !(まてや)どうしてこんな後ろ向きなのエド。
恋人設定未来パロってもっと明るいものじゃなかったのか(遠い目)
つか拍手でやる話じゃねーなははっは!(脱兎)


ちなみにウィンリィ視点もありますー(こっちも脅威の悲恋臭さワオ!泣)