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光の中のこどもたち
私が乗り込んだとき、定時から一時間も遅れた列車は満席に近かった。
どこか空いている所が無いかと見回すと、車両の中ほど、通路に面した所に一人分の隙間がある。どうにか其処に座り込んで、コートを脱いだ。
一般的に上りの列車、しかも遅れたそれはかなり込み合うものだから、もしかしたら中央駅まで立ちっぱなしかと案じていたのだが、それが杞憂に終わってなによりだ。これなら向こうに着いてから、孫と遊んでやる体力も残るだろう。
私はやれやれと息を吐く。その時だった、彼らに目が止まったのは。
その二人組は、私が座ったコンパートメントの向かい側で眠っていた。
まだ若い、二十を数えないような少年と少女だ。
座席の背もたれに体重を預けた少年と、そんな彼の肩に頭を預けた少女。
傍らに大きな鞄があるので、遠方からの旅行客に見える。
列車内特有のざわつきに隠れて実際に聞こえはしないが、穏やかな寝息が今にも耳に届きそうな光景だった。
何か懐かしいような、そしてどこかこそばゆいような心地がして、私は少しだけ笑う。
「なんだか微笑ましいですよね」
声をかけてきたのは、私の隣に座っていた婦人だ。
どうやら今の行為を見られていたらしい。
盗み見をしていたのが知られて照れ臭かったが、婦人の人好きのする笑顔につられて私も笑顔を返した。
「本当に」
思わず見とれてしまいました。
そう続けると、婦人は私もですと悪戯っぽく笑った。
「だってあんまり可愛いらしいから。ほら、男の子の方」
「男の子?」
「えぇ。彼、本を読んでいたんです」
ほら、という婦人の目線を追った。
すると言われたとおりに少年へと、正確にはその手の中の皮表紙にたどり着く。
若い彼とはおおよそ似つかない、立派な本だったことが印象的だった。
「女の子が寝ちゃってから、起こさないように、静かに取り出して。
でも自分も眠くなっちゃったみたい。あまり時間が経たないうちに………」
「寝てしまった、と 」
「ええ」
「成る程。確かに、可愛いらしいですね」
婦人は私の答えに満足したようににっこりと笑って見せる。
どこか可愛らしさの残るそれだった。
「私にもあんな時代があったかしら。なんだか羨ましいわ」
「まだお若いでしょう」
「ご冗談を。みての通り、もうすっかりおばさんですわ」
「いやいや、十分にお美しいですよ」
「まあ、お上手ですこと」
婦人は口を手で押さえながらまた笑う。
ひとしきり笑った後、彼女はまたうっとりと少年達を見て呟いた。
「……この子達、いったいどんな夢を見ているのかしら」
私もまた二人を見た。
揃ったように同じで、しかし濃淡の差をはっきりと持つ彼らの金色の髪を、窓から差し込む冬の薄い陽光が照らしている。
ぴったりと寄り添うその姿がきらきらと輝いて見えるのは私の錯覚だろうか。
それとも本当にそうなのか。
しかしどちらにせよ、答えは一つだった。
「きっといい夢でしょう」
婦人は私の言葉にやや虚を突かれた様子をみせる。
独り言に返事をされたのだから当然であろう。
実際の所は、私のそれもまた独り言に近いものであった。
しかし、彼女は直ぐにまた例の人好きのする笑顔を浮かべる。
「私も、そう思いますわ」
私達は、顔を見合わせて笑った。
向かいの可愛らしい恋人たちを起こしてしまわないように、どちらも息を殺してだ。
中央駅まであと二時間はかかるだろうか。
*
目が覚めた時はもう中央だった。
他の乗客達がいそいそと降りる準備をしているのをみて意識を覚醒させる。
慌てて、隣のウィンリィを揺すった。しかしなかなかに寝起きが悪いこいつは、ぼーっとしたままで、立ち上がったはいいものの膝の上に乗っけていたマフラーを落っことしてしまった。
何やってんだと思ったが、でも拾ってやろうと身を屈める。
が、オレが拾う前に、向かいの席にいたじいさんが拾ってくれた。
すんませんとそれを受け取って、しかし礼もそこそこにオレはウィンリィの手を引いてプラットフォームに飛び出した。
記憶に残る限り、汽車はかなり定刻から遅れていた。
走りながら駅の時計に目をやると、待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。
「あのさ、絶対、アル、もう待ってるよねぇ……!」
やっと完全に目がさめたらしいウィンリィが言った。
「多分な!」
足を止めずに答える。こっちの学校に行ったアルとはもう半年近く会ってない。
だけど、几帳面なあの弟が待ち合わせの時間に一時間も遅れるとは思えない。
きっと心配しているだろう。
「そ、それって、やっぱマズいんだよね!?」
「だから急いでんだろ!」
言葉通りオレ達は急ぐ。人待ちらしい親子や、駅員なんかの横をすり抜けて走る。
待ち合わせの中央駅東口はわりとすぐだった。
時刻表の近くに立って、不安そうに壁の時計を見上げる姿を見つけて、思わず二人でその名を叫んだのは約束の時間からちょうど、一時間と十分後だ。
MEMO再録。寝ぼけたマフラーを落っことしたとこまで実話です。
地下鉄の中で見かけたカポーがあまりにも可愛かったもので、つい……!
ちなみに「コレ究極のエド萌えじゃん!」と相方錐野にばっさり切られました。
いや、その、これは……う、ウィンリィだって愛でてるもん!(必死)
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