遠い夏の日









つやつやしたその実を噛ってみると、かなり酸っぱかった。
全然熟していないんだろう。まだ緑色の部分もかなり残っている。
季節はずれの今、遠い西の地から届いたものだと市場のおばちゃんが言ってたっけ。
そんな遠くからこの中央にまで旅をしてきたのか。
あたしはなんだかノスタルジックな気分になって、また一口噛った。
特有の酸味と青臭さがまた口一杯に広がる。でもその未熟さが逆に心地いい。



「帰ってたのか」



かけられた声に振り返る。
そういえば今日は早番だと聞いていた。
おかえり、と声をかけて、彼がコートを脱ぐのを眺めながらまた一口。



「病気行くとか言ってたけど。もう大丈夫なのか?」

「うん、さっき病院行ってきた。どっこも悪くないって」

「そっか」



なんともないような感じで、彼はあたしの向かいに座った。
最近ずっと調子悪そうにしてたから、変な病気かと心配してくれてたんだろう。
よく見たら、少しほっとしたような顔になってた。
でも頬杖を付いてあたしをじっと見ると、とたんに変な顔をして見せる。



「………で、お前。何食ってんだ?」

「見て分かんない?トマトよ」

「や、そーじゃなくて。オレが聞きたいのは、何でこの真冬にンな時季外れのもんをむしゃむしゃと手掴みで食ってるかということなんだが」

「ああ、そゆこと。簡単よ、食べたかったから」

「なんだそりゃ」

「単純明快じゃない」

「……まあ、そーだけどよ」



言いながらも納得はしてないらしい。
相変わらず、変な顔のままだった。



「あのさ、昔、トマトってよく食べたよね」

「昔?」

「そう、昔。アンタと、あたしと、アルと。
 夏になるたびに三人で近くの畑にいって、もぎたてを洗って、そのまま丸ごとガブって」

「あー、あったな。誰が一番多く食えるか、とか」

「そうそう。あれさ、美味しかったよね」

「まあな」



あたしはじっと、手の中の食べかけを見た。
赤い、というよりは緑色が強いそれはちっとも甘くない。
あの頃食べたのはもっと、赤くて、真夏の太陽みたいで。
そしてもっと美味しかった気がする。



「また食べたいなあ」



うっとりと呟いた。夏も、故郷も、今は遠い。



「また食べればいーじゃねーか。みんなで、夏に帰って」

「そうね。じゃあ、今年……は無理かもしんないから、来年。
 来年の夏、絶対四人で里帰りしよう」

「なんだよ、四人って」



あたしはまたトマトを一口噛って、微笑んでみせた。
夏の故郷の空の青さや、ひまわりの黄色、緑の牧草、そして真っ赤なトマトが脳裏に浮かんで、消える。 きっと来年の夏は素晴らしい季節になるだろう。
あたしは、そっとお腹に手を当てた。



「赤ちゃん。この中に、いるんだって」

















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ここ最近、というかもう一年くらい都会暮らししてる503が自分的に熱いです。



ちなみにエドの仕事は軍絡みです。軍と関係ないエドは想像できません……。