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想い出キッチン
久しぶりの故郷。窓の外は春のぽかぽかいい天気。
これならあいつらもデンも、気持ちよくお散歩出来てるよね。
あたしはそっとお鍋の蓋を開けた。
入れておいた砂糖はすっかり溶けてぐつぐつと音をたてている。
キッチン中に広がる甘くて、でもちょっとだけ爽やかなりんごとレモンの匂い。
もうそろそろ柔らかくなったかなと木ベラでかき混ぜて、確認する。
んー、まだちょっと固いみたい。でもほんの少しだけ。
このまま蓋開けて煮といたら、水分飛ばしてる間にちょうどよくなるだろう。
うん、いい感じ。火元を弱く調整してから、あたしは思わず笑顔になる。
手作りは少しくらい失敗しててもいいって言うけど。
やっぱちゃんと出来てるにこしたことないもんね。
後は、焦げないように煮詰めたら出来上がり。
このキッチン使うの久しぶりだからちょっと心配だったけど、大丈夫そう。
取り敢えずここまでは大成功かも。
木べらで鍋をかき混ぜながら、そうやってちょっと安心してため息。
煮詰まってきたりんごの薄い茶色はみた感じ美味しそうで、あたしはなんだか嬉しくて仕方がない。
ううん、楽しくって仕方ないっていった方がいいのかな。
今日が特別だからかもしれないけど、こんなに料理って好きだったっけって思うくらい。
うーん。考えてみる限り、少なくとも子供の頃はそんなでもなかったと思う。
料理、それもお菓子作りなんてめったにしなかった。
そういう女の子らしいことよりも、機械いじる方が好きだった位。
記憶にだって殆ど無い。
あ、でも一回だけ。
一回だけそれらしいことをしたんだっけ。
でもそれはあたしにとってはあんまりいい記憶じゃない、と思う。
えと、あれはまだエドとアルのお母さんが居た頃の話。
なんでそう思ったのかは忘れたけど、やってみたくなって。
本を見て、クッキーらしきものを作って。
それを、あたしはちょうど遊びにやってきた兄弟に自信満々でご馳走した。
でも、結果はさんざん。
一口食べた2人は、途端に揃って変な顔をしてみせたのだった。
でもその後の反応はちょっと違う。
飲み込んでから「まじぃ!」って顔をしかめたのはエド。
アルはやっと、って感じで飲み込んで、それっきり黙りこんだ。
あたしは当然その様子に、というか特に兄の方の感想に、カチン。
一生懸命作ったクッキーを「マズい」なんていわれて、なんだかその日の頑張り全てが無駄だったと言われた感じがしたのだ。
気がついた時、既に手が出ていて。後はお約束の喧嘩。
どうやって仲直りしたかはこれまた忘れたけど、そんなことがあったから、あたしは余計にお菓子作りなんてしなくなった。
まぁ今から考えてみたら、どうやったって悪いのはあたし。
さらに考えてみると、砂糖も塩も量らずに適当にぶちこんだクッキーなんて食べれたものじゃなかったに違いない。
それを2人は吐き出さずにちゃんと食べてくれたのだ。
それは多分優しさ、なんだろう。
なんだかんだいって、2人はあたしに、昔っから甘かったから。
大事にしてくれてたんだと思う。今だってそうだ。
だけどあたしは、それに甘えるだけってのは嫌だった。
いつも暖かなものを与えてくれるあいつらのために、あたしだって何かしたい。
だから、2人のためになにかできるっていうのはそれだけで、うれしい。
それでいて楽しくてしょうがない。
そういうのがあるからこそ、こうして料理するのが楽しいんだと思う。
ただ料理が楽しいって訳じゃ無くて、食べてくれる人がいるから。
2人に食べてもらうものだから。
そういえば、料理を真剣に覚えたいって思ったのは、あいつらが旅に出てから。
2人が帰ってきた時に美味しいものを自分の手で作ってあげたいって思ったから。
まったくあいつらはどれだけあたしの世界を占めているんだろう。
不得意なことを楽しいことに変えてくれるくらいだからよっぽどなんだろうけど。
そもそも嫌いになった原因だってあいつら絡みだしなぁ。
うーん、あたしって、もしかしてかなり単純?
あはは、あんまり否定できないや。
ぐるりともう一回木ベラを回して、火から鍋を下ろした。
りんごの砂糖煮からはいい匂いの湯気が昇っている。
もう、マズいなんて言わせるつもりはない。
あの時はごめんね、二人とも。
でもね、らしいってばらしいけど、やっぱ「まじぃ!」はあんまりじゃないかしら。
もう、ちょっとはアルを見習いなさいよ。
あたしは思い出の中の、渋い顔した2人を思い浮かべながらちょっと怒ってみて。
それからすぐに苦笑した。
さて、これを冷ます間にパイの生地を作っちゃわなきゃ。
生地を作って、冷ましたりんご煮を入れて、切り込みを入れて。
そうやって綺麗に作ったアップルパイにハケで丁寧に卵黄を塗る。
終わってから、両手を腰にあてて全体を高い所から確認。うん、よし。
それから余熱も確認。うん、こっちもよし。
あたしは形を崩さないように、慎重にパイをオーブンの中へと滑り込ませる。
そしてその扉をパチンと閉めてから、時計を見た。
針は2時と少しを指している。
いまから大体三十分くらいだから、えっと、うん、三時のおやつにはちょうどいい時間かな。
お茶の用意はもうしたし、使った鍋とかの後片付けもこまめにやってたから、これからやることは殆どなし。パイが焼けるのを待つだけだ。
あたしはリビングから小さな椅子を持ってきてオーブンの前に置いた。
そしてそこにどっかりと座り込む。
見ていることに意味は無いんだけど、そこはまあ、気持ちの問題。
これは特別だから。見届けたいっていうか。
そう、このアップルパイは特別。
失敗したくないし、できないから。
元に戻ったら作ってあげるという約束。
それをアルはちゃんと覚えていてくれてた。
食べたいって、楽しみだって、言ってくれた。
だから、あたしにはそれを果たす義務があるのだ。
あいつらの言葉で言えば、等価交換だ。
一つは、こうしてアルが約束を覚えていてくれたことに対して。
そして、もう一つは、その兄貴が、約束を守ってくれたことに対して。
あたしはため息をつく。今度は安心からじゃない。
なんだか顔がちょっと熱くて、それを誤魔化すみたいに急いで時計を見た。
まだほとんど針は進んでない。
ひどく手持ち無沙汰で、あたしは椅子の上で膝を抱えて、いろんなことを考える。
昔のこと。今のこと。
それから、前に作った時のこと。そして、昨日のこと。
“ 殺人的においしいんだって。”
昨日の夜、一人で騒いで一人でソファーに寝てしまった兄貴を見ながら、アルは言った。
何よそれと眉をしかめたあたしに、あいつは、アルは子供がイタズラしてる時みたいな悪い顔をして笑ってから、それが彼の兄貴の台詞であることを教えてくれた。
そして、前に作ったアップルパイの感想であることも。
聞いた後、あたしは呆れて、そして笑ってしまった。
らしいというか。昔から変わらない、っていうか。
でもアルがやけに、にやにやとこっちを見てくるもんだから、思わず拗ねてしまった。
今だって、思い出してちょっと拗ねてしまう。
ああもう、アルのバカ。でもそれ以上に、エドの大バカっ。
もう、デリカシー無さ過ぎ。子供のころから進歩してないんだから。
食べ物誉めるのに殺人的はないでしょうが、殺人的は!
あたしは怒っていた。憤りを、今は青空の下にいる兄弟に向けて発する。
テレパシーみたいに届けば楽しいんだけどね。
残念ながらあたしにそのテの力は無い。
せいぜいちょっとスッキリして、そしてちょっと落ちつくくらい。
でも、冷静になっても赤くなった頬は直らなかった。
また時計を見る。いつの間にか、あと半分くらいになってた。
あたしは、抱えた膝に頭をのっける。
ううん、そうやって赤い顔を隠した。
だって、あたしは。あたしは、本当は嬉しかった。
アルがあんなことするからごまかしちゃったけど、本当は嬉しくて、照れくさかった。
エドがおいしいって言ってたこと。
それもあたしがいない所でってことが余計に。
どうしてそう思うのかってことも自分でちゃんと分かってる。
あたしは、何を言った所で2人が大好きだった。
でもその意味は、大切なことに代わりはないのに、それぞれ少しだけ違ってて、それがあたしを今、こんなにも動揺させているのだ。
ダメだ、考えるとますます顔が熱くなってくる。
誰がみているわけじゃないのに、恥ずかしくてたまらない。
うぅ、本当にバカなのはあいつらじゃない。あたしだよ。
固まってたのはどのくらいだったんだろう。
ふと時計を確認すると、もう少しで焼き上がりの時間だった。
あたしははっとする。もうちょっとだ。もうちょっとでアップルパイが焼ける。
デンを連れた2人も、もうちょっとで帰ってくるだろう。
仕事場にいるばっちゃんも後で呼ばなきゃ。これからを考えると忙しい。
あたしはさっきまでのぐるぐるはとりあえずどこかにしまい込むことにした。
またいつか向き合えばいいだけの話。
今は、そんなことよりももっと大事なことがある。
時計の針が焼き上がりの時間を差した。
あたしは深く深く深呼吸して、思い切って、えいやっと立ち上がる。
オーブンをそっと開けると、バターの香ばしい匂いと甘い砂糖の香り。
今までで一番の出来だ。きっと、ううん絶対おいしいよね。
よかった、思わず笑ったその時だ。
デンの声と一緒に、聞き慣れた声と、聞きなれてたのよりも少しだけ低くなった声が聞こえてくる。いつかと同じでタイミングばっちし。
あたしは何だか嬉しくなって、玄関へ向かってばたばた走り出した。
おとめさんのお誕生日リクエスト。
「ウィンリーが2人のために菓子つくりつついろいろ回想する感じで。さらにいろいろ思い出すウィンリちゃんが1人で勝手に照れたり怒ったり(いろいろ思い出して)。そんでそんで2人がウィンリちゃんのとこを訪れて回想終了物語も終了で「おかえり」とかで。かわいいかわいいウィンリちゃんが見たいですよ」
とのことでした。
まるでそのまんまです。
アルにも食べてもらいたかったので、未来パロにしてみました(まだ食べてないけどな!)
久しぶりに可愛いことをするウィンリィを書きました。しかもエド←ウィン!こっちも久しぶり!(え)
おとめさんお誕生日おめでとうございます。
ぐだぐだな話でごめんよ!(平謝り)
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