|
恋するオトメ
思わず、ため息を吐いた。
故郷とは違う夕方の喧騒が、外から聞こえてくる。
窓から射す、落ち行く太陽の濃い光は、部屋全体を焦がすような錯覚を感じさせた。
夕方特有の熱気が、部屋の中にも立ちこめていて。
単純に言うと、蒸し暑かった。心地よいとは言えなかった、お世辞にも。
でも、この空気はもはやあたしにとってなんてことはない日常の一部だ。
だから、耐えきれなくはないのだ。
では、なぜ。あたしはため息を吐いたのだろう。
ああ、それはおそらくは。
日常の世界の中に、非日常たるものが存在しているからだ。
そして、それがあたしにとっては、まったくもって信じがたい行動を実践しているからだった。
ああほんとに、信じらんない。
「……なんで、こんなクソ暑い中で、寝れるのよ…」
つまり、こういうことだ。
壊したから直してくれ。実に単純明快な理由でやってきた上客は、いつのまにか寝ていた。
あたしが必要な部品を買い出しに行ってる間の出来事だった。その間約三十分。
この、およそ昼寝を貪るには不適な場所と時間なのに、眠っていた。
椅子の背に体を預け、口は開いたままというだらしない格好で。
よだれも出てそうな雰囲気だ。いや実際少し、出ていた。
あたしは頭を抱える。
なんというか、ありえないっていうか。
呆れてモノも言えないっていうか。
ていうか人が誰のために汗だらけになって走り回ったと思ってんのよ、とか。
一瞬、自分の中のバイオレンスな部分が出てきそうになる。
いいご身分じゃないの、アンタ。ああ一発といわず何発でも殴ってやりたい。
が、こんなんでもお客なんだからとどうにか押さえた。
深呼吸をして怒りを沈めることにする。すーはー。すーはー。
でもやっぱりムカついて、あたしは間抜けなその寝顔を睨み付けた。
すると、なんだか今度はなんだか情けない気持ちになる。
なんでこんなヤツなのかしらあたし、と。
あたしにだって理想ってものはあった。
そんなものに対する憧れとか、夢とか色々。
きっとキラキラしてて、甘酸っぱくて、苦しかったりするんだろなとか。
相手のこと考えると胸がときめいたりするんだろうなとか。
でも現実として、あたしの身に降り掛かったそれはあっさりしたモノだった。
ああそうだったのかという落ち着いた認識だけだ。
そこにはときめきも、甘さも、ドキドキもない。
今まで漠然と感じていたものの正体がわかって、すっきりしたとさえ思ったりした。
それでも。実際に会ったりしたら、やっぱり何か違うのかと考えたりしたけれど。
結果は、こんなんだ。あたしは変わらなかった。
いっそ清々しいまでに、何も。
ほんと、なんでコイツなのかしら。そう思わずにはいられない。
だけどその答えは、あたしが一番よく知っている。
でも同時に、あたし自身が一番わからない所もあったりする。
例えば。こんな寝顔をちょっと見ていただけなのに。
なんであたしはさっきより顔が熱いのかしら、なんて。
あたしはまたため息をついた。心から、自分に対してそうしたかった。
そして、意識的にきつめに眉を寄せて、ゆるみきった寝顔を睨み付ける。
なんだか悔しかったのだ。色々と。
それからあたしは、この信じがたい上客さんを起こすため、その耳をわざと痛さを感じるように力いっぱい引っ張ってやった。
拍手ログ。エド←ウィンな話。
書いた当時はまさかウィンリィが北に来るとは思っていなかったので、色々おかしい所がちらほらと。
でも原作ウィンも、自覚後初めての再会ではあっさりしてたのでよかったことにします(おい)
|