最大の緊張事











学校帰り。オレンジ色の空は高く澄み切っている。
だけど夕暮れということ、そして冬真っ盛りということで、気温は低かった。
簡単に言うと寒い。かなり、寒い。
コートとかマフラーとか、結構厚着をしてきたんだけど。
あんまり意味が無いみたい。風邪かしら。
やっぱ昨日遅くで起きていたから?だけど隣を歩くヤツは、こんな寒さまだまだ平気らしい。
黙々と歩いていた。なんだかそれが憎たらしい。
思わず睨み付けてみた。何よ、こっちの気も知らないで。




くしゅん!




突然くしゃみが出た。こんな考えを持っちゃいけないってことなのかしら。
はぁとため息を吐いて、寒い寒いと一応嘆いていみる。
ホントに嘆きたいのは別のこと、なんだけど。呆れたような視線を感じたけど無視。
アンタの所為なんだからね、と文句が出そうになる口も無理矢理閉じる。
世の中って不公平。なんで、あたしが風邪引かなくちゃいけないのよ。
こんなに悩まなくちゃいけないのよ。あーもう。なんで、普通どおりにできないのよ。
いつも通りに渡せないの。
夜更かしの原因になった、甘ーいアレを、コイツに。




今日は2月14日。本来はなにかの宗教のすごい人が死んだ日らしいけど。
それは過去の話。今ではチョコレート会社の陰謀からまったくその性質を変えている。
そう、今日はバレンタインデーだ。そりゃあ義理チョコとかもあるけれど。
女の子が、好きな男の子にチョコレートを送る、トクベツな日。
そんな日に、なんであたしがこんなにひっそりと嘆いたりしているのか。
理由は実に単純明快。隣を歩くヤツに。一応、付き合ってると思われる彼氏に。
朝から今まで何にもしてないから。っていうか、まだチョコ渡せてないから。



何故か。あたしにはさっきからその理由を考えている。
二人きりになる時間が無かったから?
学校の間はわかるけど、でも今日は珍しく、登校の時確かに二人きりだった。
だからコレは違う。ていうか、今現在二人きり。
だけどなぜかあたしは未だに渡せてない。
去年みたいに、今までみたいに渡せば、渡したらいいのに。渡したら。渡せたら。
でもそれが出来たらこんな悩んでないわ。考えれば考えるほど頭が、痛い。
だって、渡せてない理由なんてわかっているから。
何故、なんてホントはただの自分への言い訳だし。そう、わかっている。
あたしは、ただ恥ずかしいだけだってこと。照れ臭いだけなんだ。
だって、去年までと今年は違うから。今年は、トクベツだから。
彼氏彼女の関係になって、初めてのバレンタインデー。意識しない方がどうかしてる。
本命チョコ、なんて初めてだし………




くしゅん!




突然またくしゃみがでた。
おかげでいつのまにか陥っていた乙女モードからはたと我に返る。
う、なんか気持ち悪いわ自分。
しかしどうしてそこでくしゃみがでるのよあたし。でも寒い。
特に足!やっぱこの時期、下に体操着でもはくべきかしら。
だけど現役女子高生のプライドとしてそれは出来ない。
ああ、でもやっぱり寒いものは寒いのよ。
気を紛らわすために、また寒いーって呟いてみる。
もちろんそうやったって紛れるわけもなく。
と、その時。はぁ、とため息が隣僅か上から落ちてきた。
反射的にムッとして見ると、心底呆れたようなそんな横顔。
あたしのアレコレの悩みなんか。バレンタインデーなんか。
まるで関係ないって感じの、いつもの顔。
それに虚をつかれた気持ちになる。なんだか自分が急にバカらしく思えた。
そうよね、コイツだもん。バレンタインデーって覚えてるかどうかも怪しいわ。
変に緊張とか、意味無いよね。あたしは心の中でよし、と一呼吸。
そして、思い切って呼び掛けた。



「…エドっ!」



反応ナシ。ムッとしつつ、もう一回。こんなことザラだし。



「エドー?」



今度は顔の前にひらひらと手を振ってみた。
と、気付いたらしく、はっとこっちを見た。



「…な、なん、だよっ?」



返ってきた声は裏返ってた。何よ、そんな慌てなくてもいいじゃない。
思わず不審そうな眼差しを向ける。どうしたの、と一応聞いてみた。
そしたらなんでもない、とのこと。釈然とはしないけどとりあえずそう、と答える。
そしたら逆に、お前こそなんだと聞かれた。
心臓が一度、大きく跳ねる。
さっさと渡すはずだったのに、言葉はうまく出てこなかった。
体も動かない。思わず押し黙ってしまう。寒いのに、何故か顔だけ熱くなってきた。
僅かな沈黙。普段割と多弁な相手も、何も言わない。
代わりに、寒さのせいか顔がほんのり赤くなってるのがわかった。
何でよやめてよ恥ずかしいじゃない。うわ、ドキドキする。ぐるぐるする。
だけど、どうにか息を一つはいて決心。あたしは口を開いた。



「…あ、あの。さ…」

「…お、おう…」



だけどその後に、あたしの言葉は続かなかった。
ううぅ、と口を閉ざしてしまったからだ。ダメ、ムリ!恥ずかしい!
結局そのまま、またしてもしばしの沈黙。お互いがお互いを睨んだまま。
このまま逃げ出したいかも。でも逃げられない。
だってあたしは、コイツにちゃんと渡さなきゃいけない。いや、渡したいんだから。
一度、ごくりと喉を鳴らしてもっかい覚悟を決めた。
ごそごそとカバンの中をあさって、そして。



「………はいっあげるっ!」



真正面。お腹の辺りにぐいっと昨日の夜に作ったチョコの箱を思いっきり突き出した。
するとぐわっと言う声が聞こえる。どうやら鳩尾にあたったらしい。
ヤバって思ったけど、そんなことはこの際どうでもいい。
早く、受け取ってよ恥ずかしい。そればかりだ。
しばし間を置いて、チョコはあたしの手を離れた。
ちらり、上目で様子を見ると相手の顔は信じられないくらい真っ赤。
寒さの所為っては誤魔化せない。
逆にこっちが、恥ずかしくなるくらいの、顔。
つられてまた顔が熱くなるのを感じた。



「お、おい。お前、コレって」

「……い、一応本命だからっ」



恥ずかしさなんだか照れなんだかの勢いにまかせて言った捨て台詞。
それはなんとも可愛げの無い代物だった。うわ。
でも気にする余裕はない。
役目を終えたあたしは、ずんずんと一人で帰り道をまた歩きだした。
だ、だってこんな顔見せられない見せたくない!恥ずかしい!


「な、ちょ、待てよお前!」



しばらく進むと、背中からそんな声が聞こえてきた。
だけどそんなことなんて、誰が聞いてやるものか。



「待たない!」



振り返りもせずにそう告げる。だってあたしは早く帰りたいんだから。
こんな寒いトコから早く逃げたいんだから。
だけど、そういっても顔だけはまだまだ熱いまま。そして心臓もまだ煩いままだった。
























二月から七月終わりのくそ暑い時期まで半年間放置していた拍手(まてや)
なんか、意外に、オトメこいてて、バビりましたこんなのウィンリィじゃねえ(見えてる)



なんとなくエド視点もありますー。