前のはなし





ゆっくりと左手を伸ばすと、何をするのか分かったらしい。
ぎゅっと目を閉じられた。触れた頬は、ひどく暖かくてひどくやわらかい。
それを認識した途端に、オレの心臓は早鐘を打ち始めた。
自分でも顔が赤くなってくるのが分かる。ちょっと、やばいかもしれない。
落ち着け、落ち着けと必死に言い聞かせる。
いい加減慣れろ、キスくらい!とも。
しかし意志に反してオレの緊張が解けることはもちろん無かった。
寧ろ、逆に増すばかりだ。





これが、初めてってわけじゃない。
人よりはそりゃあ、少ないかもしれないけど、こうやって何度か唇を重ねてきた。
だけど、その度にオレはこうやって顔を赤くしてしまう。緊張してしまう。
手を繋ぐのは、完全ってわけじゃないけどまだ平気だった。
抱きしめてやることだって、出来ないわけじゃない。
それ以上は……ま、まだちょっと経験無いけど。
だけど、それでも大抵のことには慣れた。



でも、キスだけは。これだけはどうやったってムリだ。
もちろん嫌とかじゃなくて。寧ろしたいって思う。
だけどやっぱ慣れない。というより恥ずかしい。
まあ、こーゆー経験が豊富だったら別なんだろうけど。
悲しいことに皆無なオレ。つか、別に。
今までコイツ以外にそんな欲望を抱かなかったから当然といえば当然なんだろうが。
いや、それでもしかし情けねぇ……。ため息の一つでも吐きたい気分だ。
しかし激しくなる動悸はそんな願望を許さない。




そう、キスは恥ずかしい。特に、こうやってやる直前が一番。
最中や後だってそりゃかなり恥ずかしいけど。
でも妙な高揚感や勢いがあるからまだ平気だ。
だけど、やる前。つまり今この時この瞬間。
コイツの頬に触れて、コイツが目をぎゅっと閉じている時。
オレは恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなる。
普段は見ることのない顔が間近に在って、ホントにコイツはあの幼馴染なのかとさえ考える。
でもそれは、信じられないくらい可愛ったりするから。だから尚更恥ずかしい。
でも同時に、オレがコイツにこんな顔させてるのかという優越感。
それは、メチャクチャ嬉しい以外になんて言えばいい。
だから、質が悪いのだ。
ああ、結局惚れちまったオレが悪いのか。ちくしょッ。




襲ってくる羞恥心に無視を決め込んで。
オレはゆっくりと自分の顔を近付ける。気配を感じたのか、びくりと反応された。
それが、逆にたまらなく恥ずかしい。
自分の心臓の音だけがやけに煩く聞こえた。






やっぱ、キスの前は苦手だ。


























拍手ログ豆視点。性懲りもなく未来パロ。
身内に見せたら「キモっ!」とばっさり切られました。
コメントでも「貴方、誰?」(@エヴァ)と頂きました。
管理人も心からそう思います(おい!)

ウィンリィ視点、アル視点ありますー。