りんご味の告白







「あのさ。オレ、かあさんとけっこんしたい!」




お昼過ぎ。
手作りのアップルパイをむしゃむしゃと頬張りつつ、満面の笑顔で突然そう語った少年に、彼の若い両親は思わず目を見開いた。
よっぽど驚いたのか。父親の方はフォークに刺したパイの欠けらをぽとりと落とす。
しかしそんな父と母を尻目に彼は再び同じことを口にした。



「オレ、ぜってーでっかくなったらかあさんとけっこんするんだ!」



にこにこと、その笑顔は純粋そのもの。まるで言葉の意味など理解していないかのよう。



「な、な、なんだよお前いきなり!?」

「な、なんでお母さんと結婚したいの?」



突然の告白。それに対する両親の返答は見事に食い違った。
だがさすか母親ッ子の少年。
父の質問は聞こえていないのかそれともスルーと決め込んだのか。
大好きな“お母さん”を見て、それからにんまりと笑って告げた。



「だってさ。かあさんとけっこんしたら、まいにちアップルパイがたべられるだろ?」



オレかあさんのアップルパイだいすきだし!と続ける少年。
何とも子供らしく、また微笑ましいその理由。思わず、母親の顔には笑みが浮かぶ。



「あはは、そういうことか!」

「なーなーいいだろーかあさん?」

「アップルパイって……!おま、お前それだけの理由でか!?」

「なんだよもんくあんのかよ、とーさん。オレ、ほんきだぞ!!」

「いや、文句っつーかなんつーかそれ、そんなんダメに」

「わかったわかった。うん、ありがとね!」

「……ウィンリィ!?」



父親譲りの顔を不服そうに歪めて金の瞳できっ、と父を睨みつける我が子に、若い母親は満天の笑顔を向けた。
ちなみに彼女の隣では少年の父親がわなわなと驚愕に震えている。
しかしもちろんそれには無視を決め込んで、彼女はふわりと息子の頭を撫でた。
それが嬉しかったのか恥ずかしかったのか。あるいはプロポーズを受けてくれたと思ったのか。
少年は、一瞬たじろいだものの、直ぐにはにかんだようにえへへ、と笑って頬を染める。
照れ隠しだろう。その後少年は急いでおやつを食べおわると、いってきまーすと一声、風のように部屋を出ていった。
まだまだお日様が沈むまでには時間があるので、外に遊びに行ったのだ。









さて、爆弾を撒いて少年が去った後。リビングに残るは彼の若い両親だ。
しかしその二人、まったく表情が違っている。




少年の父親は普段から悪いと言われる目付きが更に悪くなっていた。
眉間に皺を寄せて、まさしく苦虫を噛んだとはこのことであろう。
それに対し彼の奥さんは微笑を浮かべ、なんだかとても楽しそうだ。
かちゃかちゃと、音を立てて息子の食器を片付けながら、歌でも歌うかのように彼女は口を開いた。



「なーに不貞腐れてんの?」

「……べっつに」



そうはいうものの、返ってきた声はおもしろくなさそうな、不満そうな呟きだ。
んー、と人差し指を唇にあてて彼女は夫の不機嫌の理由を考える。
しかしさすがに長い付き合いだけのこと。直ぐにその答えに思い当たった。
あっ、と小さな声を洩らして、ついっと彼に、悪戯っぽい笑顔を近付ける。



「もしかして」

「……なんだよ」

「あの子が言ったこと、真に受けちゃった?」

「まさか」



わざとしく平静を装った声。だが彼女は、畳み掛ける。



「じゃあ、嫉妬した?」



誰がッ!と噛み付くように彼は反論する。
しかしどうやら図星だったようで、ふいと今度は完璧にそっぽを向いてしまった。
その様子があんまり大げさで、あんまり子供っぽかったので、彼の奥さんは思わずくすくすと笑いだす。



「………なに笑ってんだよ」

「いや、だって、あんたわかりやすいんだもん。そっか。嫉妬ねぇー」

「だから、違うっての!」

「違うの?」

「………違う」

「ホントに?」

「…………違、う」

「ホントにホント?」



首を傾げて尋ねてくる妻に、彼の言葉が、つまった。
分が悪い、と本能的に悟る。しかしここでコレを認めるのはなんというか男のプライドが許せない。
しかしこの場をどうやって切り抜けるかは分からなかった。
だからしばらく固まったままでいると、隣で楽しそうにこちらを見ていた彼女が、にっこりと、笑った。



「ま、あんまりいじめても可哀相だから、そういうことにしといてあげるわ」

「………けっ。あのな、ホントそんなんじゃねーからな」

「はいはい。あ、そだ」



まだなにかあるのか、と彼女に向き直ったその瞬間。
何やら柔らかくて暖かいものを唇に感じて、目を見開く。
その正体がわかった時にはもうその繊細な感触は無くなっていた。
代わりに、彼の顔の大変近いところ。
そこにはまたしても子供のように悪戯っぽい笑みを浮かべた、顔。






「言い忘れてた。安心しなさい?あたしがこんなことするのは、後にも先にもあんただけ、だから」






例えあの子といえども、ね。
そう付け加えて、先程息子にしたように彼の父親の頭を彼女はふわりと撫でる。
しかしその笑顔は、甘くまろく、どこか少女めいたもの。
息子に見せた母親としてのそれと、よく似ているが違うものであった。
それから、さて後片付け後片付けと立ち上がって、キッチンへ軽やかに向かう彼女。
茫然とその姿を視線でおいつつも、体はこちんと固まっていた若い父親、いや青い夫はしばらくしてからはっと我に返った。
そして盛大に赤くなった顔を、鼻歌混じりに洗い物をする自身の妻からふいと背けると、まだ食べおわっていなかった今日のおやつをフォークで一刺し。
憮然とした表情でばくばくと食べはじめる。





彼女手作りのアップルパイ。それはいつにも増して甘く、すっぱかった。















………管理人はこんなんでも死ぬほど恥ずかしさを覚えるチキン野郎です(何)
しかし子供に嫉妬すんなよエド。つーかこれエドウィンというよりむしろウィンエド?(聞くなや!)

エドウィンは新婚でも熟年夫婦並みに所帯じみていると思います。だけどいつまでも青春してて欲しい。
彼らの子ども達はきっとみんなお母さん子だと思います。ファイト!パパ!!(胡散臭い笑顔で)


よりにもよって大豆派の友達の誕生日に送りつけたもの。
あはははっ!Mちゃん誕生日おめでとーっ!!(脱兎)(最低)