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抜けるように晴れ渡る空と、雄大に流れる入道雲。今日は、夏真っ盛りといったところか。
砂漠に近いので、ここリゼンブールの気候はカラリとしたものだ。
燦々と降り注ぐ太陽はじりじりと、現在庭にいるオレの背中を焦がしている。
あー、マジに暑いな今日は。スイカ食いてぇー。
なんて思ったけど、それは直ぐに頭の隅に追いやって、オレは目の前にちょこんと座る家族の顔を見る。
そして、一言。
「な、なぁ。オレと結婚してくれねぇ?」
先程から数えて四度目になる問いに、黒と白の毛並みを持つ彼女は首をコトリ、と傾げることで答えた。
炎天下の鬼ごっこ
オレ達の長かった旅が終わりを告げたのは、だいたい一年ちょっと前のことであった。
どうにか弟の体を元に戻し、そして戻ってきたオレが、今までずっと溜め込んでいた感情をあいつにぶつけて。
それを、嬉しいと言ってくれたあいつと一緒に故郷に帰ってからは、ちょうど今日で一年になる。
そう。今日はオレにとって、オレ達にとって重要な節目となる日だった。
それはもちろん、ただの幼なじみから恋人同士という関係に進展してちょうど一年の記念日ということだ。
だが、それ以上に。オレにとっては人生を左右する重要な告白をする日でも、あった。
オレは、かぱりと手に持っていた小さな箱を開けて、練習に(一方的に)付き合ってもらっている家族――――幼い頃から一緒だった、彼女の愛犬の鼻先に向ける。
そして、またしても一言。
「ほ、ほら。やるよ!」
答える代わりに、デンはぶるぶると体を震わせたのちにオレをきょとんと見た。
もし彼女が言葉を話せるのなら「なぁに?」とでもいいたげな様子である。
どうやら、あまりお気に召さなかったらしい。
手にした箱の蓋を閉じてから、はぁ、とオレは本日もう何度目かもわからないため息をつく。
難しい。いったい、何て言ったらいいんだこのプロポーズってヤツは?
やっぱり、それなりに格好よく決めたいって願望はある。
何といっても自分の、そして相手の人生に関わる一言なのだから。
だが、どうもこういう恋愛事情には疎いオレだ。
どうやったら女心を掴めるかとか、そんなんがまったくもって想像できない。
とりあえず練習を、と思い、さっきからデン相手に考え付く台詞を片っ端からやってみてはいるが………どれもイマイチ。
ピンとこないのが現状だ。
付き合わせちゃってごめんなと、がしがしデンの頭を撫でる。
すると嬉しそうに目を細め、体を擦り寄せてくる。ちくしょう、可愛いやつめ。
「……なー、デンー?」
名前を呼ぶと、可愛い家族は大きくて黒い瞳をこちらに向けてくる。
「……なぁ。お前のご主人様はさぁー、どう言ったら喜んでくれると思う?」
もちろんデンがそれに答えてくれるわけが無い。
やっぱり首を傾げるだけだ。
まぁ、デンが教えてくれるんならオレだってこんな悩んだりしないんだけどさ。
はぁ、とまたしてもため息。
だけど、こうしてうだうだしていてもしょうがない。
オレは、デンに向き直る。
賢い彼女の後ろに、彼女の飼い主の姿を重ねながら。
………こうなりゃ色々やってみるだけだ。
まずは、一般的なヤツから。
「お、オレと結婚してくれ!」
………うん。さっきもやったけど普通すぎだ。
もうちょっと、こう………オリジナル性が欲しいところだ。
じゃあ今度はそれを全面に押し出してみて、
「……お前の作ったシチューが、毎日食いたいんだ」
あー………悪くは無い。うん、悪くはないんだけど。
あいつ、滅茶苦茶鈍いからなあ。
なんでシチュー毎日つくんなきゃならないの、とか言いそうだ。
………はい次、次!
「お前、嫁の貰い手なさそうだからな。しょーがないから、オレが貰ってやる感謝しろ!」
……殴られる、絶対。つーかスパナ決定だ、これだと。
やっぱ高圧的なのはダメだよな。
んじゃあここは一つ下手にでてみることにして、
「頼むから結婚してください。お願いしますウィンリィさんしかいないんです……!!!」
必死すぎだっつーの!下手に出るにも程があるだろッ!!
……あぁ。しゃがんだまま、オレは深くため息一つ。
なんかすげぇ、疲れた。もうホントどうしたらいいのかわからん。
頭をがしがし掻き上げるが、全然いいアイディアは浮かんでこない。
もちろんデンは、オレが何を言おうともただ首を傾げるばかりだ。
まあ、黙って聞いてくれるだけでもありがたいけどさ。
でも本当に、何を言えばいいんだろう。
……アルは昨日、“兄さんが思ってることを言えばいいんだよ”とかなんとか言ってたけど。
本当にそれでいいのか?それでいいのなら、簡単だ。
簡単だけど、でもなぁ、うーん……………まぁ、一応やってみるか。
何でも、試すに越したことはないし。
「…あのな、ウィンリィ」
声を落として、デンに呼び掛ける。
様子の変わったオレに、きゅーんと不安気な声を洩らして視線を、上げる。
「オレは、お前じゃないと、ダメなんだ」
燦々と降り注ぐ日光が、流れる入道雲によって遮られる。
僅かばかり涼しい風が、庭にしゃがみこんだままのオレと、いつのまにかお座りをしているデンの間を吹き抜けた。
「だから結婚、してくれないか?」
そしてオレはデンをしかと見据える。
見つめられた方は、しばしの沈黙の後、いきなり立ち上がって嬉しそうに尻尾をパタパタと振った。
あんまりそれが今までの反応と違うので、なんかこっちも嬉しさが伝染しそうな感じだ。
いや、実際かなり嬉しい、かも。
………あ、そっか。
オレは、なにかがすとんと落ち着く気がした。
これでいいのか。
無理して格好つけなくても、これでいいんだな。
うん、なんとかなりそうだ。
ありがとな、と感謝の意を込めてまたデンを撫でてやろうと手を伸ばす。
だが、彼女は視線を目の前のオレに向けず、どこか遠くを見ていた。
そして、しゃがんだ態勢のままのオレの横を軽やかに走り抜ける。
何事かと思った瞬間、ぱきりと枝か何かが踏まれた音が、した。
オレは目の前が真っ暗になる。
プロポーズの練習なんて、誰に聞かれても恥ずかしい以外の何物でもない。
しかも、ばっちゃんとアルは今日は買い出しに出ているから、ここにいるはずもない。
もちろん、客とかでもない。
デンがこんなに嬉しそうな様子で、傍に駆け寄る相手が客であるはずがないから。
だから、つまり、その、今現在この時この瞬間にオレの後ろにいるのは………。
ぎごぎごと、鈍い音がしそうな程ゆっくりと振り返る。
するとその先には、大好きな飼い主の足元にじゃれつくデンと、その飼い主――――わかりやすい程に顔を真っ赤に染めたウィンリィが、いた。
何度も口をぱくぱくとさせ、青く大きな瞳はめいっぱい見開かれている。
オレと目が合うと、彼女は弾かれたように後退りし、そしてぎこちない笑顔でしながら、告げた。
「………あ、あ、あたしッ。何もッ、聞いて、ないからッ!」
そして、勢い良く走りだす。
オレは信じられないというかありえないこの状況を理解するのに数秒を有した。
だが、すぐに立ち上がると逃げ出した彼女を捕まえようと追い掛ける。
「お、おいちょっと待てよ!」
「……待たない!な、なんで追い掛けてくるのよ!?」
「お前が逃げるからだ!何で逃げるんだよ!?」
「そ、そ、それはその……………アンタが悪いからよ!」
「オレが悪いって……おまっ、どこが“聞いてない”だ!ばっちり聞いてんじゃねぇか!!」
「うっさい!あたし何も聞いてないッ!あんなの、聞いてないからッー!!!」
両耳を手のひらで押さえながら、ウィンリィは田舎道を走り続ける。
すれ違う村人の視線をかっさらいながらオレ達の珍妙な鬼ごっこは続いた。
だが、さすがに体力ではオレに分がある。
次第に、その差は縮まっていき、オレはどうにか前を走っていた彼女に追い付いた。
腕をつかんでどうにか止めると、ぜぇぜぇと息を整えつつ、オレはぎろりとウィンリィを睨み付けた。
「………な、何!?」
「……お前。やっぱり聞いたんだろ?」
運動と、夏の暑さと、恥ずかしさの所為で赤くなった顔そのままにオレは問う。
問われた方は、顔を真っ赤にしてそれでもなお聞いてないと答えた。
………お前、その顔に説得力なんてないぞ。
「……聞いてただろ」
「だから聞いてない!あた、あた、あたしあんな……ッ!」
「あんなってなんだ!つーかやっぱ聞いてんじゃんか!」
「うっさい!き、聞いてないったら聞いてないの!」
「なッ!?て、てめぇいい加減に………!」
「……そうよ。聞いてないし、み、認めないわ……!絶対、ぜぇーったいあんな、あん、なプロポーズな、んて………。
そうよ!どうしてくれるのよあたしの理想を!アンタの所為で台無しじゃない!!」
赤い顔はそのままに、ウィンリィの瞳には怒りの所為でじんわり涙まで浮かんできた。
なぜお前が怒るし泣くんだ。
怒りたくて泣きたいのはオレだっつーの!
「認めないって、おまっ……じゃあちゃんとしたら認めるのかよ!?」
「そ、それは、その………………」
「どーなんだよ、あぁ!?」
「あ、アンタがちゃんとしてくれたら認めるし、受けてやろーじゃないの!プロポーズの一つや二つ」
「お、お前、言ったな?今、言いやがったな!?」
「言ったわよ!まぁ、あ、アンタにそんな度胸あるわけないけどね」
そういってツンと視線を逸らすウィンリィを見て、プチリ、オレの中で何かが切れた音がした。
「……度胸がない、だとぉ?」
「無いじゃない!ぷ、ぷ、プロポーズの練習をデン相手にするなんて!」
「てめぇ言わせておけば好き勝手……!!あーあーそこまでいうのならこの場でしてやろうじゃねぇか!」
「えーえーじゃあしてみなさ…………え?あ、アンタ何言って」
ウィンリィの言葉を最後まで聞き終わらないうちに、すっかり頭に血が上ったオレは、彼女の両肩を掴んだ。
また、逃げ出されたらたまったもんじゃない。
ちなみにその顔は先程までの怒りはどこへやらといった風だ。
混乱が、手に取るように伝わってくる。
それを見て、オレの怒りも沈んできたのだが、いまさら後には引けない。
どうせ今日言うつもりだったのだからと開き直ることにして、口を開く。
「………ウィンリィ」
「な、何よ……」
「オレは、お前じゃなきゃ、ダメなんだ」
ぎゅっ、と細い肩を掴む手に力を込めた。
そして、息を一つ吸って本題に入る。
ウィンリィの顔は、呆然としたままだ。
「だから……」
「……だ、だから?」
「結婚、してくれないか」
そこで、真っすぐに彼女を見つめた。
ホントはポケットに突っ込んだままの指輪も出したかったが、何せ肩を掴んだままなので叶わない。
だから、後はいつのまにか俯いてしまったウィンリィの答えを待つだけだ。
じりじり照りつける太陽の下でオレは、待った。
一秒が、何分にも感じられた。
今更ながら、照れと恥ずかしさと不安がオレを支配している。
ようやくウィンリィが顔を上げる。
その顔はこれまでに無いほど真っ赤だった。
それはもう、こちらも顔が熱くなるくらいのもので。
しかも、ぼろぼろと泣いている。
口は一文字にきゅっと引き結んで、上目使いでこちらを見ていた。
「お、おまッ何で泣いて」
その問いをウィンリィが最後まで聞くことはなかった。
きゅっ、とオレの胸倉を掴むと、そのままぽすりと頭を預けてくる。そして一言。
「バカ、アホ、デリカシー無し」
「……何だそれ。やれって言ったのはお前だろ。だからオレはやっただけだっつーの」
「……ホントにやるなんて思わないじゃない!」
「何だよお前。………嫌、だったのかよ」
「………そうじゃ、ないけ、ど。でも」
「な、何だよ?」
「…………バカ」
あとは、オレもウィンリィも何も言わなかった。
……どこの世界にプロポーズの返事がバカ、なヤツがいるだろうか。
いやいない、普通はいないだろうそんなヤツ。
すっきりしないが、おそらく返事はイエス、なんだろう、な。
なんか、妙に嬉しそう………だし。
後は指輪を渡すだけだが、とりあえずそれはウィンリィが泣き止んでからにする。
ここで抱きしめてやれない自分のへたれっぷりには失笑だが、オレは未だに掴んでいた(もう力はまったく入れていなかったが)肩から手を離すと、左手で彼女の頭をくしゃりと撫でた。
やっぱ、早く泣き止んでくれることに越したことはないから、な。
さて、どうにかプロポーズが成功に終わったことで、オレは喜びに満ちていた。
だが、数時間後に待ち受ける運命をこの時のオレは知るわけもない。
天下の往来、しかも通行人はすべて知り合いという田舎道。
この恥ずかしすぎる鬼ごっこと、赤面以外の何物でもないプロポーズは、日が沈むまでにはすっかり村中に広まっていたのだ。
もちろん、帰ってきたばっちゃんとアルにもそれは伝えられた(そして冷やかされた)。
ちなみに、その事実を知ったウィンリィは一週間、まともに口を聞いてくれなかった。
何か言おうとしたら“デンに聞いてもらったら?”とにこりともせずに言われた。
……………なぁデン。オレは悪くないよな?
だが聞いたところでデンは、ただ首を傾げるばかりだ。
えー。展開の速さには目を瞑ってください(いきなりか!)
大豆派の友達に「503のプロポーズってどんなんだと思う?」と聞いたら、「デンにプロポーズの練習をしていたら、それが見つかってしまうエド」と言われました。
よし、これはもう書くしかないだろうと………!(自分でネタを考えない管理人)(最低)
うちのエドの割にはちゃんとプロポーズできました。なんてめずらしい!!!
…………しかし恥ずかしい奴らめ!(泣)
ちなみに、エドのプロポーズの台詞は、いいのが思いつかなかったので管理人の両親のモノを使用(最低)
ありがとうお父さん!娘は元気に大都会でオタク街道突っ走ってるよ!!!(超いい笑顔)
2006年5月3日、つまりエドウィンの日記念作品(しかし舞台は夏)(アウチッ!)
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