|
真夜中の来訪者
カーテンの隙間から差し込む月光は、深夜だというのに部屋を照らしているランプの灯によって、すっかりかき消されていた。
一心不乱に、何か金属の塊に向かっている少年は、時折思い出したように作業台に広げたままの図面を睨み付け
また何事もなかったかのように手を動かす。
長い金髪を後ろで一つにまとめ、同じく金色に輝く瞳に眼鏡を掛けた少年――エドワードは、
突然手にもっていた工具を置くと、それまで彼が熱心にいじっていたものを両手で持ち直した。
そしてそれを、ランプに近付けてじっくりと吟味するように見る。
「………よし」
どうやらその出来に納得したようで、にやりと笑うとまた彼は工具を手にとった。
部屋に響くのは、金属同士がぶつかる音と、図面に何かチェックをする時のペンと紙が擦れる音。
そして、壁の時計が時を刻む音。
あとは何も音を立てるモノがないためか、それら三つはかえって夜の静かさを強調する。
しかし、夜が明けるまでつづくと思われたその静寂は、突然破られた。
静寂を破ったのは、彼の部屋の扉を誰かがコンコンと叩く音。
作業の邪魔をされたエドワードは、不機嫌そうに扉を睨んだ。
しかしこんな時間に誰が、とすぐに思い直す。
壁の時計を見やると、針は既に二時を回っていて。
早寝の祖母ということはまず、ありえない。
眠ることができないあの幼なじみかとも考えたが、
こんな時間に彼が部屋を訪れたことなど今までになかった。
―――誰、だ?
回転が速い頭で、そこまで考えを巡らしたエドワードの耳に聞こえてきた声は、やはりそのどちらでもなかった。
「あの……起きてる?」
そう、遠慮がちに中の人間に問う声に、エドワードは覚えがあった。
だが、その声の主は普段ならもう眠りについているはずだ。
ますます不審に思いながらも、彼はとりあえずその人物に言葉を返す。
「起きてるけど………ってなんでお前がまだ起きてんだよ!?」
しかし、その質問に対する答えは返ってこない。
代わりに中に入ってもいいかと問う声が聞こえた。
質問に質問で返すな、とか、何してんだよ、とかいろいろ言いたいことはあった。
しかし、その申し出を断る理由は別段なかったので、彼は答える代わりに部屋の扉を開けた。
途端、香ばしい香が漂う。
「…はい!」
そういって訪問者はエドワードにマグカップを差し出した。
中の真っ黒な液体からは湯気がゆっくりと上っている。
「な、何だよ?」
「何って……コーヒーよ、コーヒー」
そう、あっさりと答える訪問者―――ウィンリィはまたマグカップを突き出した。
そしてまるで受け取れと言わんばかりに、エドワードの顔を見る。
「いやそうじゃなくて!」
「いいから受け取る!」
義足がスペアのためか、ぎこちなく詰め寄ってぴしゃりと言う少女に、何だかんだいってエドワードは昔から頭が上がらない。
結局、今回も彼女の言うとおりにおずおずと手を伸ばしてコーヒーを受け取った。
「最初っからそうやって素直に受け取ればいいのよ、うん」
もし彼女の右腕がついていたら腕を組んでいただろう。
そう、満足そうに語る姿を尻目にエドワードはコーヒーを口に含んだ。
入れたてとおぼしきソレは、徹夜二日目の身にしみる味で……なかなかイケる。
「んで。どうしたんだよ、コレ?」
「へっ?」
コーヒーを啜りながら、エドワードはチラリと幼なじみを見た。
「だから、コレ。どうしたんだって聞いてんだけど」
「あ、ソレ!?うん。それは……………」
「それは?」
「えっと。……あのね、喉が乾いたから目が覚めて」
「うん」
「そしたら、アンタの部屋がまだ明るかったから」
「うんうん」
「だから……」
「だから?」
「……コーヒー、持ってきたの。うん。それだけ」
「…意味わかんねぇ」
「だから、それだけだってば!!!」
「いやだから意味わかんねぇし」
「……うん。コーヒーも渡したし。もう行くね!」
「はぁ!?」
思いっきり怪訝な顔を浮かべたエドワードを無視して、ごまかすようにアハハハと笑いながら、ウィンリィは大げさにきびすを返した。
途端、彼女の体が傾く。
「キャ……ッ!」
なれない足で急に動いたためにバランスを崩したのか。
長い金髪がふわりと宙に舞って。
だが、衝撃を予想して目をつぶった彼女が、床に尻餅をつくことはなかった。
「ったく……何やってんだよ」
ウィンリィが恐る恐る目を開けると、自分のものではない金色の髪が視界に入った。
きょろきょろと周りを見渡すと、誰かが片手一つで自分の体を支えてくれていることがわかる。
そして、その誰かというのが幼なじみの少年であるということも
そのままウィンリィがゆっくりと顔を上げると、不意に金色の瞳と視線がぶつかる。
「あ、ありがと…」
「……ったく」
気を付けろと言いながらエドワードは、不意に幼なじみの右肩―――機械鎧の接合部に目がとまる。
ランプの光を受けて鈍く輝いているソレはいくら見慣れてるとはいえ、やはり彼の気を重くする。
――なんでコイツは…
「…?」
――こんな、無茶…
「……エド?」
エドワードは、自分を呼ぶウィンリィの声でふと我に返った。
「な、なんだよ?」
「あの…も、もう大丈夫だからッ!!」
「え?……ってあ!!」
そこで初めて彼は、自分の手が未だにウィンリィの体を支えていることに気が付いた。
弾かれたようにパッとその手を離す。
今更ながら、顔が火照ってくるのをエドワードは感じた。
チラリと幼なじみを横目で見れば、彼女の方もこれまたおもしろいくらい真っ赤になっている。
「ご、ごめんッ……!」
「えッ!?いや、あたしも……その、ごめん……」
「べ、別に」
「そ、そう?………」
「…………」
お互いぎこちなく、取り繕うような会話は直ぐに途絶えて。
そして部屋は、何とも言えない静寂に包まれる。
カチカチと、時計の音だけが響いている。
そんな静寂を破ったのは、またしてもウィンリィだった。わざとらしく大きな声で
「あ、あたし行くね!」
と告げると、そのままゆっくりきびすを返す。
長い髪が金色の軌道を描いた。
「そ、そっか。うん、早く寝ろよ!」
アンタもね〜と冗談っぽく言うウィンリィの声に何故かほっとしつつ、エドワードは答えた。
何ていうか、彼女がこれ以上ここにいるのは色々と心臓に悪い。
そんな様子を悟られないようにアハハハと笑う。
「……あのね、エド」
急に変わった声のトーンに驚いて、エドワードはその笑いをやめる。
「な、何だよ!?」
「……ありがと。その、色々と」
振り向きもせずにそれだけを告げると、ウィンリィは部屋から出ていこうと扉に手を掛ける。
「……こっちも」
コレ、ありがとな。
エドワードがマグカップを掲げながらそう告げると、ウィンリィはそこで初めて、顔だけを彼の方に向けて微笑む。
そして、お休みとそのまま部屋から出ていった。
カチカチと時計の音が響いている。
「……素直じゃねぇのな」
お互いに、とはあえて言わずにエドワードは苦笑いを浮かべた。
そして手に持ったコーヒーを啜る。
ソレはもうすっかり冷めてしまったが、味は、先程と変わらない。
「…ったく」
窓の外は真っ暗で、ソコから差し込む月の光は相変わらずランプの光でかき消されている。
「…あんま無茶すんなよ」
誰にも聞こえないようにつぶやくと、彼は眼鏡をくいっと片手で上げた。
そして工具を手に取ると、再び金属の塊―――幼なじみの少女の右腕となるものに向かう。
夜は、まだまだ長い
設定入れ替えエドウィン。何が書きたかったってそりゃ眼鏡エドとふらつくウィンリイさんですよ。
そのためだけに設定入れ替えましたよ。そして普通の設定が書けやしない(遠い目)
|