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暗い牢獄
閉じていた目を開けると、部屋は未だ闇の中だった。
ぼやけた視線で壁の時計を見ると、針は真夜中を指している。
恐ろしい程、静かな闇。
でもそれは当然の光景だった。別に驚くべきことでもない。
今晩ボクは、まだ一度たりとも夢の世界を覗いてはいなかったからだ。
こうしてベットに潜り込んでからどれくらいの時間が経ったのかなんて、よく分かっている。
それがボク自身にとって好ましいことかと言われたら、もちろん答えはノー、だ。
明日は朝早くから、遠くの町へ行く予定になっている。
だから、なんとしても睡眠をとらなければならなかった。
寝返りをうつ。シーツを引っ張ってみる。
でも、それでも一行に眠気というものはボクを襲ってはこない。
たまに、こうやって眠れない日がある。
体は疲れているのに、不思議な程頭は冴え切っていることが。
そんな日が、ボクは大嫌いだった。真っ暗なのも、静かすぎるところも全部。
それは昔、眠れない体だったからかもしれない。
夜は一人きりだったからかも、しれない。
だけど、眠ることができる体に戻ってからも、ボクはこんな夜が大嫌いだった。
昔のことで敏感になりすぎているというにはおかしい程に。
理由は簡単だ。
だって、静か過ぎる時間は長く感じる。
その闇は、永遠に明けそうもないくらい深く思える。
それが堪らなく憂欝で、それでいて単純に怖かった。
そうボクは恐れていた。眠れない夜を、静寂な夜を、真っ暗な世界を。
ボクを、ボク自身の内なる世界へと連れていってしまうその力を。
思考と空想の世界へと落とすその強さを。
そしてボクは知っていた。
そんな時に頭の中に浮かぶものは、決して良いものじゃないことを。
そう、殆どは、向き合いたくはないことだけをボクに突き付ける。
忘れてしまいたい記憶。考えたくなんてない過去。そして身を置く、現実。
その事に対する後悔と悲しみと苦しみ。そんなものばかり。
だからボクは夜を嫌う。闇を、恐れる。
そこに溺れないために、睡眠を望むのだ。
いいや、違う。逃げてしまいたいだけなのかもしれない。
今更、どうにもならないことについて考えてしまうことから。
それは虚しくて、哀しいだけだから。
そう。眠れない夜は怖い。それは、昔から変わらない。
あの頃、こうやって眠れない日というのはつまりは毎日だった。
物理的に睡眠を欲しない鉄の身体で迎える夜の不安を、ボクは決して忘れたりはしないだろう。
だけど、あの頃はこうして救いも無い世界に堕ちそうになるボクを踏み留まらせてくれるものがあった。
定期的に聞こえてくる寝息、いくら注意しても直らないひどい寝相。
いつだって隣に在った、夜の光景だ。
それは、ボクにとってある種の象徴だった。
大嫌いな闇を、静寂を、優しいものへと変えてくれるもの。
不思議と安らぎと安心を、与えてくれるもの。
だけど、今は。
ボクは、無理矢理に閉じていた目を開けた。
そして隣のベットを見る。そこに横たわる背中は、ぴくりとも動かない。
姿勢は崩れる事無く、寝息さえ聞こえてはこない。
一番よく知るひとなのに、まるで知らないひとのような姿。
だけどこんな夜はいつだってそうだった。
きっと、眠ってはいないのだろう。眠れないのだろう。
その心に浮かぶのはきっとボクと同じ。
本当は忘れてしまいたい記憶。
それでも決して忘れられない忘れてはいけないひと。
考えたくない過去。それでも考えずにはいられないこと。
そして行き場無くわだかまる想い。
そんなものばかりがその身を回り続けているのだろう。
それはボクよりも、きっともっとずっと、ずっと強い。
見ているこちらが苦しくなるほど強すぎて。
だからシーツを被って、それを見ないようにする。
かたく瞳を閉じて、見えないようにする。
ボク自身の思考など消し飛ばすその姿を、見ないように。
だけど鮮烈なまでにそれはボクの頭に浮かび続け、消えることはないのだ。
ボクは夜が嫌いだ。闇は、怖いから。
静寂は、思考を呼ぶから。ああ、大嫌いだ。
夜は、一番辛い姿を。一番見たくない形で。
まざまざとボクに見せつけるのだから。
そしてそれはどこまでも、ボクを。
ボク達を、闇と静寂を以て縛り続けるのだから。
MEMO再録。映画後弟君。
本来は503にする予定だったのに香りたつアルエド臭(わお)
だけどアルルン大好きです。アルルンー!(何)
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