花よりも団子よりも





昼下がり、というにはちょっと下がりすぎた時間。
場所は、繁華街の中のコーヒーショップ。
チェーン店ということもあって、もの珍しいものは無い。
だがそうはいうもののこの店は、中々に込み合っている。
コーヒーの薫りと、漂う僅かに湿気を含んだ暖かい空気が交じり合う雰囲気。
それが心地よいためだろうか。
ちなみに、客層はというと、下校後ということもあって学生が多い。
だが、一時の安息を求めて立ち寄るサラリーマンや、おしゃべりに花を咲かせる主婦の姿もある。ともかく、立場は違えど彼らは一様に、午後の穏やかな時間を楽しんでいた。








それは、窓際の一席に腰掛ける中学生とおぼしき少女もまた同様だ。
少女―――ツナは、フォークを手に目の前にあるケーキを見る。
それはピスタチオクリームの黄緑色とココアスポンジの濃い黒の段々重ねがなんとも美しい代物。特に一番上に滑らかに輝くチョコレートとそこにちょこんと乗せられたピスタチオ。
そのコントラストは見事としか言えない。まさしく芸術品。
しかし、そんなことはツナには関係なかった。
とっても美しいケーキなんて、裏を返せばとっても美味しそうということで。
ごくり、ツナは生唾を飲む。所詮色気より食い気の年ごろである。
彼女はそっと、一口分を削り取って自らの口に運んだ。
途端に口一杯に広がるチョコレートとピスタチオのハーモニー。
甘すぎず、しかし濃厚な味とやわらかな食感。
それらは感嘆するほどに口の中で溶け合って     つまりとても美味しかった。
そして、チョコレートには昔からミルクが合うものと決まっている。
甘い余韻をお口に残したまま、ツナは傍らに置いていた暖かいスチームミルクを一口。
独特の風味は、あったかい幸せを彼女のお腹に運ぶ。



あぁ、オレ、幸せ。




彼女のただ今の心境はそれだった。
京子やハルには負けるけれど、彼女だって女の子の端くれだ。
ケーキは、やっぱり大好物だった。
思わず笑顔を浮かべると、ツナはまたケーキに取り掛かろうとする。
が、こちらに突き刺さる視線を感じて何事かと顔を上げた。
ちなみにフォークは持ったまま。彼女は、口を開く。



「……………なに」



すると、向かいに座る少年は素っ頓狂な声を上げた。



「へ?」



気を抜いていたのか。銀髪の少年ははたはたと瞬きを繰り返す。
しかし、ツナの訝しげな視線に気が付くと逆に問いを返した。




「は、へ、いや、な、何ですか10代目?」

「な、何って。いやそれオレが聞いてるんだけど」

「あ、ああ。あ……あの、いや、その………」



ツナは少年の答えを待った。しかし、いくら待てどもそれは返ってこない。
あの、えーと、など曖昧な言葉を彼はぶつぶつと呟くのみだ。
なんとも歯切れが悪い。何なんだ、と思い、ツナは少年を見る。
すると彼の銀髪少年が顔を伏せたままであることに気が付いた。
そしてその視線の先には     
そして、はたと彼女は思い当たった。もしかして。



「あのさ、獄寺君」

「は、はい!?」



もしかすると、彼はずっと気になっていたんじゃないだろうか。



「………あの、さ」

「……は、はい」



ツナは神妙な顔で告げる。
獄寺は獄寺で、そんな彼女の様子に思わずコーヒーショップには相応しくない真剣な表情を浮かべた。妙な雰囲気が二人の間に漂っている。
ごくり、獄寺は喉を鳴らした。
なんだ。10代目は何を仰ろうとしているのか。緊張感を持って、彼は言葉を待った。
だがしかし、次の瞬間。
そんな張り詰めた空気はツナ自身によって見事に破られた。









「……ケーキ、食べたいの?」

「へっ?」




思わず間の抜けた声が獄寺から漏れた。
しかしツナはそんなことは気にせずに言葉を重ねる。



「だったらさ、言えばいいのに。ほ、ほら少しくらいだったらあげるから、ね!」



言って、ツナはケーキの乗った皿を獄寺の方へとぐいぐい押しつけた。
もともと一人で食べるのはちょっと気が引けていた。
獄寺が食べたがっているのなら、ちょっとくらいはいいかなと思っての行動だ。
しかしようやく我に返った獄寺は、大げさなまでに首を横に振った。
いやいりません。いりませんからっ!
その態度にツナはちょっとムッとする。
何なのだ、人がせっかく勧めてあげたのに。



「なんだよ。いらないの?」

「い、いらないです!」

「なんで」

「え、いや、それは10代目のものですから、あの」

「でもずっと見てたじゃん、コレ」



コレ、の所でツナは食べかけのケーキをフォークで指した。
その妙な威圧感に、獄寺は萎縮しながらもしかし口を開いて、一気に告げた。



「いや、あの、それは、あの、け、ケーキを見てたわけじゃないです!」

「へっ?」



何だ、とツナが思った次の瞬間。
彼女の目の前に座る少年は、声高に力一杯告げた。
というか、おっきな爆弾を彼女目掛けて投下、した。




「あの、俺は、10代目が、あ、あんまり、幸せそうだったんで。
 ……………あ、あの、つまり、だから、じ、10代目を見てたんです!!」




だん、と机に手を付いて告げられた言葉の意味。
それを、ツナが理解するにはたっぷり五秒はかかった。
しかしそれを理解することは彼女にとって幸せなことだったのか。
取り敢えず、すべてを理解したツナは赤面した。
持っていたフォークをポロリと落とす。
そしてこう、思った。


何、言ってんのこの人。何、素で恥ずかしいこといってくれちゃってんの。
しかも、こんな、公衆の面前で。えっマジで周りの視線が痛いんですけど。
あはははさすがハーフ。日本人には、理解しがたい感覚を備えているのかな。
いやでもそれにしても、やっぱり信じられない。この人ッ!


思わず、引きつった顔で彼女は恥ずかしい恋人をじとりと見た。
しかし、彼はどこまでも真剣な顔だった。つまり、全部本気なんだろう。
だからこそ、質が悪い。怒るに、怒れなくなる。
どこか諦めに近い気持ちで、ツナは口を開いた。



「………そう、なんだ……」

「はいっ!!」



返ってきた明るい声に、ツナは知らず息を吐く。
だが、彼女のそんな感情に反して顔は何故か熱いままだった。
ツナはなんだか自棄になって、フォークを再び手にとった。
この動揺を押さえてくれるのはもはや美味しいものしかない。
ざくりと件のケーキを一突き。そしてそのままぱくりと食べる。
メチャクチャ美味しいそれは、やっぱり変わらず美味しかった。























拍手ログ。獄ツナ♀さりげに恋人設定だったりする話。
獄ツナ大好きです。ホントに。
どっちもお互いに振り回されてる二人がツボ。
でも一番好きなのはくっつく前。獄寺が、一人で悶々してる頃がいい(笑)

スタ●のケーキ食いながら考えました(だからケーキは実在のものだったり)